平井秀明(平井康三郎声楽コンクール実行委員長)

作曲家ゆかりの地で日本歌曲の真価を問い直す試みを

 〈平城山〉〈ゆりかご〉などの作曲で知られる平井康三郎。彼の歌曲のみが課題曲となる平井康三郎声楽コンクールを2021年から始動させた実行委員長の平井秀明に話を聞いた。康三郎の孫で作曲家、指揮者だ。秀明の父であるチェリスト、作曲家の丈一朗が審査委員長を務める。

 「生誕110年の2020年開催を目指しましたが叶わず、21年に第1回を行いました。驚いたのは20代から80代まで幅広い層の応募があったことです。翌年の第2回は20代の方が随分増えたのですが、一方で、祖父の歌曲の言葉と音の繊細なニュアンスを、60代以上の歌手が味わい深く歌ってくれました。若手もそうしたベテラン世代の歌唱に刺激を受けたようです」

 東京予選の会場は康三郎の墓がある青山の梅窓院の祖師堂だ。

 「住職が音楽好きでべヒシュタインのピアノを所有しており、隈研吾設計の祖師堂に400席ほどの響きのよいホールがあります。祖父も弾いたこの楽器をコンクールで使用予定です。今回、父の意向もあり、応募年齢を18歳に引き下げ、初めて関西予選も行い、若い時から日本歌曲に触れやすいようにしました」

 課題曲はバラエティに富んでおり、〈のうぜんかづら〉〈うぬぼれ鏡〉などは独特の趣がある。

 「祖父の歌曲は膨大ですので、有名曲だけではない様々な作品の魅力を発見していただきたいですね。祖父は多くの文学者、文化人と交流があり、林古渓さんから有望な新人として紹介された北見志保子さんは、〈平城山〉の歌詞で一躍有名になりました。祖父と同郷の高知出身というのは作曲後に知ったそうです。作品は声楽、器楽、邦楽と多岐にわたりますが、故郷の明徳義塾高校をはじめ、千曲以上の校歌も作曲しました。予選の課題曲に含む〈日本の花〉は、朝ドラで話題の植物学者・牧野富太郎を尊敬していた祖父が、彼の植物図鑑からもインスピレーションを受けた作品だそうです」

 孫が音楽家を志すことに当初は反対した康三郎だが、博識かつ豪快で磊落な面もあった。

 「芸術、文学はもちろん、ラテン語などにも通じていました。音楽に関しては厳しかったですが、大の酒豪で毎晩晩酌をしていましたね。今回の審査員でもある関定子さんのリサイタルで『僕に歌わせて!』と、〈酒の歌〉を代わりに歌ってしまったという逸話もあります」

 コンクールの入賞者は継続してサポートしたいという。

 「祖父の歌曲を通じて学んだことを各自の歌手人生にいかしていただきたいですね。入賞者には、コンクールを後援してくださる渋谷区や故郷・いの町主催の演奏会他、以後、様々な出演機会を設けたいと考えています」
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2023年8月号より)

第3回 平井康三郎声楽コンクール
第一次予選(非公開) 
2023.9/26(火)~9/29(金) 東京/梅窓院・祖師堂
9/21(木) 京都/レスパス・エラン
第二次予選 10/10(火) 
本選 10/12(木)
入賞記念コンサート~平井康三郎命日~ 11/30(木)
渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール
問:平井康三郎声楽コンクール実行委員会03-6403-9846 
https://www.arioso.co.jp
※コンクール応募締切:7/31(月)必着 

詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。