気鋭の二人が細部までこだわり抜いた意欲作
ヴァイオリンの黒川侑とピアノの久末航によるCD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集』がリリースされる。一度でも彼らの演奏を聴いたことがある方にはかなりワクワクするニュースではないだろうか。日本音楽コンクール第1位、仙台国際音楽コンクール聴衆賞などを獲得し、日本各地で演奏を行う黒川にとってはデビュー・アルバムとなる。
「ブラームスの作品がそもそも好きで、ヴァイオリン・ソナタも若い頃は演奏会で取り上げていましたが、最近はちょっとご無沙汰していました。しかし、録音のお話をいただいて、やるからには中途半端なものではなく、しっかりと手応えのあるものを残したいということで、3曲のソナタにあらためて取り組んでみました」と黒川。
作曲家自身が優れたピアニストでもあったので、そのピアノ・パートもなかなかに難しいとされる。
「確かにピアノも難しいのですが、今回の共演では黒川さんのヴァイオリンの音色が濃厚かつコクがあって、それに惹き付けられるように僕も音楽を作っていくことができました」と語る久末は、現在ベルリン在住で、ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ部門第3位獲得など、海外での受賞歴も多い。
そのふたりが強力なタッグを組んだこの録音は、ブラームスが人生の後期に書いた3つの「傑作」の隅々にまで光を当てる。
「3曲とも個性がそれぞれ違っている上に、後期のブラームスらしく複雑な音型や和声がところどころに待っていて、どうやって音楽を作り上げていくか、迷うところが多い作品です。特に難しいと感じたのは第1番で、ヴァイオリンとピアノの対話や音の繋がりを意識して演奏し、ピアノにずいぶん助けられながら録音を終えることができたと感じています」(黒川)
「第2番の第1楽章にはアマービレという表情記号が付いていますが、それを自然に表現するのも難しいことでした。どの曲も、ホールでの録音の後に、スタジオでの編集段階でヴァイオリンとピアノのバランスを調整し、聴き落としてしまいそうなピアノの内声部の音もクリアに再現することで、ブラームスの魅力を捉えることができたように思います」(久末)
ローム ミュージック ファンデーションの奨学生として知り合ったふたり。出身は京都と滋賀というお隣同士。その息の合いかたも興味深かった。CDはもちろんのこと、DSD11.2MHzハイレゾ・レコーディングによる配信も行われるので、ぜひ高音質でふたりの共演を聴いてほしい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2023年8月号より)
CD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集』
アールアンフィニ
MECO-1077 ¥3300(税込)
2023.7/19(水)発売