樋口達哉(テノール)

イタリア仕込みの美声で聴く人を虜に

 二期会の看板テノール、待望の2ndアルバム。舞台ではオペラのみならず、オペレッタ、邦人作品などレパートリーを広げている樋口だが、かつて研鑽を積んだ地、イタリアの歌曲からカンツォーネまでを収めた本作はまさにその歌声の核心だ。
「オペラの全盛期である19世紀末の歌曲から民謡、ポップス寄りのものまで、過去の偉大なイタリア系名テノールの名盤なども参考に検討を重ねて、今、自分の歌いたいものばかりを集めたら、ちょうどこの20曲になりました」
 アルバム全体を通してイタリア男の熱い情熱がほとばしり、一途な恋心やせつなさが鮮やかに浮かび上がる。
「〈彼女に告げて〉や〈泣かないお前〉あたりは直球勝負ですが、落ち着いた歌唱で内に秘めた強い想いを表現した曲もありますし、〈マリウ、愛の言葉を〉などには洒落た雰囲気が素敵。時代も様々で、アルバムのタイトルにしようかと思ったくらい大好きな〈最後の夜〉はジョシュ・グローバンの『AWAKE』(2006年)収録の名曲です」
 中間部を彩るイタリアの歌曲王、トスティ作曲のナンバー5曲も聴きどころのひとつ。
「〈理想〉や〈夢〉のようなロマンティックな旋律と豊かな情趣に溢れたサロン向けの歌曲が有名ですが、後半でどんどん勢いを増して盛り上がる〈暁は光から〉はオペラを書かなかったトスティだけに興味深い一曲です」
 〈カルーソー〉はイタリアのシンガー・ソングライター、ルーチョ・ダッラが伝説のテノールを歌にした人気曲。
「パヴァロッティによる見事なカバーが圧巻ですが、特に前半の語りかけるような部分がポップスならではの歌い回しで、オペラ歌手には難しいものが…。でもやっぱり心にぐっとくる名曲なのでどうしても入れたかった」
 伴奏を務めた名手ヴィンチェンツォ・スカレーラのピアノも今回のアルバムの聴きものになっている。
「かつて一度、アルバムの構想を持って彼のもとに相談に行ったことがありました。結局実現しなかったのですがその時のことを憶えていて、今回快諾して下さり、何とそのためだけに来日してくれました。本当に夢のようなレコーディングです。僕のスタイルを尊重しつつ、これまで綺羅星のような名歌手との共演で培ってきた経験で的確に導いてくれました。特に最後の〈グラナダ〉はカレーラスとの名盤を聴いて以来、絶対に共演したかった曲なので嬉しさもひとしおです」
 11月には、このスカレーラと共にCDリリース記念コンサートを開催。プログラムは本CD収録曲を中心としたイタリアン・ナンバーを予定している。ライヴでも持前のリリコ・スピントの美声をぞんぶんに味わえることだろう。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)

11/15(土)16:00 津田ホール
問:二期会チケットセンター03-3796-1831
http://www.nikikai.net

【CD】『パッシオーネ〜イタリア歌曲集』
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