望月哲也(テノール)

オペラ歌手ならではの歌曲を

(c)FUKAYA_Yoshinobu auraY2

 シリーズ「Hakujuの歌曲」に望月哲也が登場する(ピアノ:河原忠之)。目玉となるのはホルン(髙橋臣宜=東京フィル首席)との共演。生演奏ではなかなか聴けないこの編成で、シューベルトの〈流れの上で〉とブリテンの〈セレナード〉を歌う。

 「“声楽の室内楽”を演奏してみたいと考えました。もともとピアノ以外の楽器とのアンサンブルにもすごく興味があって、ホルンやチェロ、ファゴットのような、落ち着いた音域をまるい響きで聴かせられる楽器が好きです。自分自身の表現でもそういう声の質を求めたいと思っていますし、とくにホルンのヴィブラートの少ないまっすぐな音は、自分も目指している音色で、相性の良さを感じます」

  〈セレナード〉は全8曲の歌曲集。1曲目と終曲がホルン・ソロであることからもわかるように、テノールとホルンは拮抗して対等に向き合っている。

 「ピーター・ピアーズとデニス・ブレインという名手たちのために書かれていることもあって技術的にも非常に難しく、レベルの高い素晴らしい曲です。僕もその高い技術になんとか追いついて、表現者として曲に挑みたいですね。髙橋君によれば、ホルンにとっても超絶難曲だそうです。15世紀から19世紀までの詩を集めているので、時代によって英語もだいぶ違うんです」

 「オペラ歌手が歌う歌曲の醍醐味」があるはずだという。

 「最近は歌曲だけを歌って、オペラはめったに歌わない歌手もいますけど、僕は昔のディースカウやシュライヤー、ヴンダーリヒ、プライといった、オペラをやってきた人たちの歌う歌曲がすごく好きで。ああいう表情豊かな感覚で歌曲を歌いたいんです。いま何を歌っているのかを、声の色や言葉の語り口、表情で伝えたいと思いますし、そのように芝居すること、表現が多くなることが、オペラ歌手が歌曲を歌う醍醐味だと思います。
 その歌曲をHakuju Hallで歌うのは最高です。僕にとってpで歌うというのは、絶対に譲れない大事な技術。pによってfも生きてくると思います。それを安心して使えるのがいいですね」

 プログラムは他に、もう一曲ブリテンで〈ミケランジェロの7つのソネット〉、ベートーヴェン〈遥かなる恋人に寄す〉。少し気分を変えて〈ゴンドラの唄〉〈宵待草〉など大正の日本の歌もはさむ。イタリア語、英語、ドイツ語、日本語。そしてさまざまな声の響きやテクニック。バリエーション豊かにいろんな望月哲也を聴けそうだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2023年6月号より)

Hakujuの歌曲 #3 望月哲也 テノール 〜ホルンと共に
2023.9/23(土・祝)15:00 Hakuju Hall 
5/20(土)発売
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://hakujuhall.jp