Menahem Pressler 1923-2023
ピアニストのメナヘム・プレスラーが5月6日、ロンドンで亡くなった。教鞭を執っていたインディアナ大学が発表した。享年99歳。
独マクデブルクに生まれたユダヤ人であった彼は、1939年、ナチスから逃れるため両親とともにドイツを脱出。パレスチナを経由して、1946年にアメリカに移住。サン・フランシスコでおこなわれたドビュッシー国際ピアノコンクールで優勝して、国際的な注目を集めるようになった。1955年には、ダニエル・ギレ(ヴァイオリン)、バーナード・グリーンハウス(チェロ)とともにボザール・トリオを結成。古典派からロマン派のピアノ三重奏のレパートリーを数多くフィリップス・レーベルに録音し、2008年に解散するまで創設メンバーのなかで唯一53年のキャリアを全う。この分野で不動の地位を築いた。教育者としても、世界各地でマスタークラスを行うなど、多くのピアニストを育成し、エベーヌ四重奏団など若手グループとの共演も積極的に行っていた。
トリオの解散後は、ソロ活動に主軸を移し、90歳でベルリン・フィルと初共演(指揮はサイモン・ラトル)。2018年には、94歳にして『月の光~ドビュッシー、ラヴェル、フォーレ: 作品集』でドイツ・グラモフォンからソロ・デビューを果たし、同年、ベルリンでおこなわれたレーベルの創立120周年を祝うイベントにも出演した。
日本では、晩年の庄司紗矢香(ヴァイオリン)とのデュオの演奏も印象深い。最後の来日となった2017年10月のサントリーホールでのソロ・リサイタルでは、ステージを歩いてピアノの前に座るのにも介添が必要な状況であったが、ドビュッシーの前奏曲集やショパンのマズルカなどを披露し、小柄な身体から生み出される慈愛に満ちた演奏とチャーミングな笑顔で聴衆を魅了した。客席のあちこちから、すすり泣きが聞こえていたことが忘れ難い。まさに伝説的ピアニストと呼ぶに相応しい存在だった。
Menahem Pressler’s Official Site
https://menahempressler.org