世界遺産「法隆寺」にふさわしく
最高のキャストで上演される本格派野外オペラ
文:香原斗志
ローマ時代の闘技場 vs. 世界最古の木造建築
日増しに暖かくなり、屋外イベントにもってこいの季節が近づいてきた。ここ3年ほど、こうした季節を迎えながらイベントの開催が困難で、フラストレーションをためた人も多いと思うが、今年はもう遠慮が要らない。そこにおあつらえ向きの公演だ。
オペラの本場である欧米では、夏期に各地で野外オペラが上演される。なかでも有名なのが、古代ローマ時代の円形闘技場で開催される北伊ヴェローナの音楽祭で、野外ならではの広いステージを活かしたスペクタクルな舞台が楽しめる。オーケストラはスカラ座ほかから名手が集まり、指揮者も歌手も一流どころが集う。
今年は日本でも、本場ヴェローナの音楽祭に負けないほどの公演が開催される。「ジャパン・オペラ・フェスティヴァル 2023 法隆寺公演」として開催される野外オペラ《トロヴァトーレ》がそれである。古代ローマ時代のモニュメントにもっとも対抗しうる日本の遺産といえば、世界最古の木造建築にして世界遺産の法隆寺ではないだろうか。まさに、そこが舞台になる。
ジャパン・オペラ・フェスティヴァルはこれまでも姫路城や名古屋城、熊本城、あるいは平城宮跡の大極殿前など日本の伝統的建造物を背景に、日伊それぞれの文化の価値を引き立ててきた。それがコロナ禍で中断したのち、いよいよ真打ともいうべき法隆寺が舞台になるのが感慨深い。
しかも、吟遊詩人の愛と死が描かれたヴェルディの《トロヴァトーレ》は、オペラのなかでもとくに屋外の場面が多い。変わりゆく空の色や風の音を感じながらの鑑賞で、とりわけ味わいが増す作品だといえるだろう。
過去に何度もヴェローナに通った筆者としては、日本で本格的な野外オペラが楽しめるのがうれしくて仕方ない。いま「本格的な」と記したが、それは法隆寺という舞台だけを指しているのではない。最高水準の上演でなければ、法隆寺の価値に負けてしまうだろう。しかし、その点でも抜かりがない。
主要歌手はROSSO(赤)とBIANCO(白)のダブルキャストで、よくぞ集めたというメンバーだ。敵役のルーナ伯爵は、ミラノ・スカラ座やヴェローナ野外劇場などで名唱を重ねる正統派バリトンのアルベルト・ガザーレ(赤)と、イタリア中心に引っ張りだこのマルチェッロ・ロジェッロ(白)。ロジェッロはボローニャ歌劇場で聴いた《椿姫》のジェルモンの名唱が印象に残っている。
吟遊詩人と相思相愛のレオノーラは、この役に適した影がある美声を自在に操るクロアチア出身のラナ・コス(赤)と、イタリア人で深く格調高い声のクラリッサ・コスタンツォ(白)。吟遊詩人の母親(血はつながっていない)のロマの女性・アズチェーナは、美しさと深さと力強さが両立したロシア出身のマリア・エルモラエワ(赤)と、若手ながら翳りある声が表情豊かなイスラエル出身のシェイ・ブロホ(白)。
そして吟遊詩人のマンリーコは、ドラマティック・テノールとして国際舞台で活躍を広げるイタリアのアンジェロ・ヴィッラーリ(赤)と、チリ出身で劇的な声をやわらかく聴かせることもできるディエゴ・ゴドイ(白)。よくここまで適役が揃ったものである。
マルチェッロ・ロジェッロ クラリッサ・コスタンツォ シェイ・ブロホ ディエゴ・ゴドイ
管弦楽はモデナ・パヴァロッティ歌劇場フィルハーモニーが来日し、音楽監督の吉田裕史が指揮。演出はイタリアの名匠で、国際的に評価が高まるベルガモのドニゼッティ音楽祭の創始者でもあるフランチェスコ・ベッロット。
イタリア伝統のスタイルと音色に満ちたヴェルディが上演されうる条件が、幾重にも満たされている。そうして表現されるホンモノが、法隆寺という日本が誇るホンモノとぶつかり合い、融合して生み出されるもの。それはある意味、本場イタリアの野外オペラの価値を超えてしまうかもしれない。
ジャパン・オペラ・フェスティヴァル 2023 法隆寺公演
野外オペラ「トロヴァトーレ〈吟遊詩人〉」
~炎の復讐劇~
2023.5/18(木)・19(金)・20(土)・21(日)[全4日間公演]
各日18:30開演
※休憩は2幕終了後に1回の予定
会場:法隆寺特設ステージ
作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
台本:サルヴァトーレ・カンマラーノ
レオーネ・エマヌエーレ・バルダーレ(補作)
出演(ダブルキャスト)
ROSSO
ルーナ伯爵:アルベルト・ガザーレ
レオノーラ:ラナ・コス
アズチェーナ:マリア・エルモラエワ
マンリーコ:アンジェロ・ヴィッラーリ
BIANCO
ルーナ伯爵:マルチェッロ・ロジェッロ
レオノーラ:クラリッサ・コスタンツォ
アズチェーナ:シェイ・ブロホ
マンリーコ:ディエゴ・ゴドイ
フェッランド:アレッサンドロ・アビス
イネス:原璃菜子
ルイス:武井基治
老ジプシー:藤山仁志
指揮:吉田裕史
演出:フランチェスコ・ベッロット
照明デザイン:ジャン・ポール・カッラドーリ
演奏:モデナ・パヴァロッティ歌劇場フィルハーモニー
問:0570-023-223(平日10時~17時)
https://sawakami-opera.org