チョ・ソンジン(ピアノ)

変貌を遂げつつあるアジアの大器

 Photo:Ramistudio.com
Photo:Ramistudio.com
 若いピアニストの演奏を聴く面白さの一つは、あるとき突然何かに目覚めたかのように、飛躍的な変化を見せてくれるところにある。
 韓国で学び、2009年にわずか15歳で浜松国際ピアノコンクールに優勝して注目を集めたチョ・ソンジン。その後2011年にチャイコフスキー国際コンクールで第3位に入賞。プレトニョフやゲルギエフ、チョン・ミョンフンらの著名指揮者と共演するなど着実にキャリアを重ねる中、2012年の秋からパリ国立音楽院に留学。このアジアの大器がどのように変化してゆくのか期待を膨らませていたところ、実際、聴くたびに予想を超える変貌を遂げている。
「自分では、留学したことで音楽が変わったという意識はあまりないんです。もしかしたら、チャイコフスキーコンクール後には変わったかもしれません。コンクール中のすべての出来事が大きな経験で、同時にとても大変な毎日でしたから。当時の僕はまだ人生や世界について何も知りませんでした。あれからいろいろな経験をしましたので、より感情を表に出すようになったと思います」
 現在師事しているのは、フランスものや近現代作品の卓越した奏者として知られるミシェル・ベロフ。
「先生のレッスンは週1度なのですが、レッスン中には、音楽について、人生について、本当にいろいろな話をします。とても強い個性を持つやさしい方で、音楽家としてだけでなく人間として大変尊敬しています」
 今回のリサイタルプログラムは、前半にモーツァルトの幻想曲ニ短調K.397とソナタ第3番、シューベルトの即興曲集D.935より第3番、バルトークの「野外にて」、そして後半はオール・ショパン(バラード第4番など)という内容。
「一夜で聴衆のみなさんにたくさんの色を見せたいと思って組んだプログラムです。似た色を持つモーツァルトとシューベルト、そこから一気に異質の世界を持つバルトークへ。後半のショパンはとにかく好きで、今たくさん演奏したいと感じる作曲家です」
 昨年、浜離宮朝日ホールで行われたリサイタルでは、鮮烈なプロコフィエフのソナタ第2番を披露した。最近、こうした打楽器的な要素を持つ作品への興味が高まっているのだという。今回はそのリズム感と色彩感覚を、バルトークの「野外にて」で聴かせる。
「ベロフ先生のもとで学ぶようになって、こうした作品に魅力を感じるようになりました。先生の弾くバルトークは本当にすばらしいですから」
 素直な音楽性がさまざまな刺激を吸収して、見事に花開いている。今年20歳を迎え、夏には4週間の兵役を経験するそうだ。10月の来日時には、今のアーティスト写真とは少し雰囲気の違う、短髪に精悍な顔つきの彼が見られるかもしれない。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)

浜離宮ピアノ・セレクションー気鋭の『今』を聴くー 
チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル 
10/27(月)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu