ミハイル・プレトニョフ ピアノ・リサイタル

異端の巨匠 — その視線の先にある音楽世界

(c)Rainer Maillard/DG

 ミハイル・プレトニョフは、未来からやってきた。そんなふうに思えるほど、かつて若き鬼才とみられた彼は、従来の演奏解釈を覆すように、鋭利な表現意欲を大胆に打ち出してみせた。新時代の鮮明な技巧をもって、ピアノという楽器の想像力を超え、音楽とダイレクトな接触を試みるかのように。現代の作曲家として、やがては活動の重心を移すオーケストラ指揮者としての視点も演奏表現に大きく活かしながら。

 「ピアニストとしての時代はほぼ終わった」と話していたが、実際、2006年から数年間はピアノ演奏から遠ざかった。しかし、2010年代半ばからピアニストとしての活動を再開したプレトニョフは、来日の都度さらなる驚きを運んでいる。持ち前の尖鋭さと鮮烈なまでの自在さ、強く明晰な透視力はそのままに、それを鋭利な技巧で外向的に放射するだけでなく、ぐっと内省的な濃密さをもって、作品への理解をじっくりと語り始めるようになったのである。音も透明に澄んでいる。ときに温かくまどかに。未来はかくして過去への思慕を含む現在になった、私にはそんな気がする。

 今回のリサイタルでは、スクリャービンと先達ショパンの「24の前奏曲」を組み合わせて弾く。スクリャービンは初期に凄烈な録音も残しているし、ショパンもかねがね得意としてきたレパートリーである。天才ふたりのカレイドスコープに改めて臨み、ピアノ技巧の粋と曲想の多様さを鏤めた音楽世界を、いまのプレトニョフが時代を越え、どのような心で歌うのかが楽しみだ。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2023年3月号より)

2023.2/28(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp