俊英が挑むベートーヴェンのチェロ・ワークス
ソロや室内楽、オーケストラへ首席客演と近年活躍めざましいチェロの俊英。恒例となった9月の王子ホールでのリサイタルは今年、ベートーヴェンが遺したチェロを含む二重奏の全作品を1日で弾くという意欲的なプログラムとなった。
「ベートーヴェンのチェロ・ソナタはあまりにも偉大な存在ですが、ヴァイオリン・ソナタの殆どが20〜30代初期に固まって書かれているのに対して、5つあるチェロ・ソナタはわりと生涯にわたって作曲されていて、しかも当時こんなに弾ける人がいたのかなと思うようなパッセージが出てきたり、けっこう斬新に扱っているところが興味深いですね。またヘンデルやモーツァルトの有名な旋律を主題にした変奏曲には遊び心もあり、意外とお茶目な性格が見えてきたりするのも楽しいですよ」
当日は14〜16時と18〜20時の2部構成。お得な「通し券」があるのも嬉しい。
「ぜひ通しで夜までおつきあい下さい。第1部には人気のソナタ『第3番』、第2部には珍しいヴィオラとチェロの二重奏曲と、聴き所なども分けて構成を考えました。空き時間の2時間には銀座ならではの楽しみもあります」
共演者も華やか。個性の違う4人の実力派ピアニストが持ち回りで登場するのも圧巻だ。
「これまで妻(海野春絵)との共演が多かったのですが、現在5ヵ月の子どもを抱えていてさすがに…。それに、もしこのプログラムを1人の方にお願いしたとしたら、完全にそっちに主役を奪われそう…とは言いつつ、素晴らしいピアニストたちが揃いますので、ピアノがお好きな方もぜひ」
ヴィオラとのデュオでは親交の厚い、N響首席奏者の佐々木亮との共演にも注目。
「彼のヴィオラには1音の中にも歌心を感じます。実は10年程前に演奏家仲間との集まりでこの曲を一緒に演奏したことがあって、それ以来なのでお互いにどう変わったかも楽しみのひとつ。これから5人とは練習を重ねるわけですが、とにかく自分がいかに疲れていようと、みんな全力でぶつかってきてくれると思いますので、どの曲も気が抜けませんよね、もちろん本番でも。今回は敢えて自分をとことんまで追い込む覚悟です」
父上の海野義雄(元N響コンサートマスター)を筆頭に、錚々たる顔ぶれの音楽一族の生まれだが…。
「チェロを始めたのも14歳からと遅く、あっけない程に英才教育とは無縁の育ちです(笑)。最近やっと、自分の求める音と実際に出せる音との隔たりが小さくなったと感じられるようになりました。遅咲きですが何卒よろしく」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)
海野幹雄×ベートーヴェン ベートーヴェン チェロ作品全曲演奏会
9/28(日)14:00/18:00 王子ホール
問:新演奏家協会03-3561-5012
http://www.shin-en.jp