ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ)

楽聖とシューベルトの傑作を2台のピリオド楽器で聴ける贅沢な一夜

(c)Marco Borggreve

 オランダが生んだフォルテピアノの名手、ロナルド・ブラウティハムが、ワクワクするようなプログラムを携えてトッパンホールに帰ってくる。曲はベートーヴェンの「エロイカの主題による変奏曲とフーガ」とピアノ・ソナタ第23番「熱情」、そしてシューベルトの生涯最後のソナタであるピアノ・ソナタ第21番。ベートーヴェンの「熱情」にしてもシューベルトの第21番にしても、それぞれリサイタルのメインプログラムになりうる決定的な傑作であり、それだけでも聴きごたえは十分。加えて、今回はブラウティハムが2種類のフォルテピアノを弾き分ける。

 ベートーヴェン作品で使用されるのは、ポール・マクナルティ製作による1800年頃のアントン・ヴァルター・モデル。過去にブラウティハムがトッパンホールでベートーヴェンを弾いた際にもこの楽器が用いられていたと記憶するが、現代のピアノにはない音域ごとの音色の変化やニュアンスの豊かさが新鮮な感動を呼び起こしてくれた。フォルテピアノによる演奏は、ベートーヴェンの着想がしばしば楽器の表現力の限界に挑むものであったことを教えてくれる。

 一方、1828年に作曲されたシューベルトのピアノ・ソナタ第21番では、ヨハン・ゲオルク・グレーバーのオリジナル(ウィーン式/1820年製)が用いられる。楽器の年代にして20年の差がどれほどの違いを生み出すのか、大いに好奇心を刺激する。そして、シューベルトを世界的なフォルテピアノ奏者の演奏で聴ける機会は貴重だ。忘れがたい一夜になるにちがいない。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2022年11月号より)

2022.11/29(火)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 
https://www.toppanhall.com

他公演
11/26(土) 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール(0798-68-0255)
11/28(月) 武蔵野市民文化会館(小)(アレグロミュージック03-5216-7131)