ミシェル・ダルベルト(ピアノ)

現代フランス最高峰のピアニストが贈る彩色豊かなプログラム

(c)Jean-Philippe Raibaud

 1955年パリ生まれのミシェル・ダルベルト。20世紀の巨匠、ヴラド・ペルルミュテールの薫陶をうけ、伝統を受け継ぐベテランピアニストが、各地でリサイタルを行う。

 東京(浜離宮朝日ホール)、京都、豊田で演奏するのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番とリストのロ短調ソナタを軸に、モーツァルトとフォーレをあわせたプログラム。

 「ベートーヴェンの最後のソナタは、あまりに高い精神性を持つ作品。演奏しようとするたび、その音楽精神にあと一歩届かず、失敗したかのような気持ちになることがほとんどです。それでももう一度立ち向かいたくなるのが性。私もこのチャレンジを楽しんでいます。

 リストのソナタは傑作として広く知られています。私は、彼こそベートーヴェンの偉大なソナタに匹敵するほどのソナタを書けた唯一の作曲家だと思っています。一見幻想曲のように聞こえますが、構造をよく見ると、ソナタ形式に忠実だということがわかります。これはこの作品の数ある不思議の一つです。毎回の演奏が挑戦で、最初の二つのソの音を鳴らした時にはいつも、“さあ、冒険に出かけよう”という気持ちになるのです。

 そして、フォーレについては私の中で年々愛が深まってきているので、彼の作品の中からノクターンを取り上げることにしました」

 一方、武蔵野で演奏するのは、ショパン、シューマン、ラヴェル、リストによるファンタジーあふれるプログラム。

 「幻想曲という同じタイトルを持つ作品でも、それぞれに必要なサウンドはまったく異なっている点が興味深いと思います。プログラムの中で、それぞれの作曲家ごとに別のピアノを弾き分けられたらいいなと思うくらいです。そんな理想を実現させるのは本当に難しいことではありますが」

 今回は、パンデミックによる公演中止を経ての久しぶりの日本公演となる。

 「前回の来日は2020年2月、世界がこのウイルスの深刻さに気づき始めた頃でした。日本を離れ、本当に長い時間が経ったように感じます。昨年5月にフランスで演奏活動を再開できるようになった時、聴衆がコンサートに足を運び、生の演奏を聴くことでどれだけ安堵しているか、音楽家もひしひしと感じたものです」

 久しぶりに日本の聴衆を前に演奏するこの機会は、自身にとって「特別で忘れがたい思い出となるはず」と話す。その想いとともに、作品への深い理解を存分に披露してくれるだろう。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2022年11月号より)

ミシェル・ダルベルト ピアノ・リサイタル
2022.11/8(火)19:00 浜離宮朝日ホール
11/15(火)19:00 武蔵野市民文化会館(小)
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 
http://www.pacific-concert.co.jp

他公演
11/6(日) 豊田市コンサートホール(0565-35-8200)
11/11(金) 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ(075-711-3231)