ハンガリー国立歌劇場《魔笛》

世界一の人気作の隠れた魅力まで徹底的に味わえる好機

 《魔笛》は人気がある。統計によれば、近年も世界中の歌劇場で上演された回数が、《カルメン》や《椿姫》を押さえての1位だ。それには理由がある。メルヘン調で美しい音楽に彩られているから、と言っても外れてはいないが、《魔笛》はもっと深い。昼を象徴するザラストロと夜を象徴する女王が、音楽的に見事に描き分けられていたり、庶民の姿が闊達に描かれていたり、同時代では画期的な「女性の社会参画」を促していたり——。

 だが、そういう深みが常に引き出されるわけではない。モーツァルトの音楽とともに歩んできた歌劇場が、練達の指揮者や歌手を揃えて上演してはじめて、モーツァルトが作品に込めた途方もない力が放出される。

 そういう歌劇場はどこか。ハンガリー国立歌劇場が有力なひとつであることは間違いない。ウィーン国立歌劇場と並ぶ、ハプスブルク帝国の二大劇場として君臨し、モーツァルトの音楽が育まれた土壌を歴史的に共有しているからだ。

 そこに名匠ヤーノシュ・コヴァーチの指揮。さらに、パミーナはハンガリーが誇る世界的リリック・ソプラノ、アンドレア・ロスト(高崎公演のガブリエラ・フォドールも豊かな声の名花)。夜の女王には音楽性の高いモーツァルトが絶賛されているルツィエ・カンコヴァー(東京(11/5))と、圧倒的に広いレンジの声でヨーロッパを席巻しそうな若きエヴァ・ボドロヴァ(高崎、東京(11/6)、びわ湖)。ほかにも役者は揃った。

 実は《魔笛》に備わっている、もう一歩先の魅力。それはこういう歌劇場のこうした布陣で引き出される。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2022年11月号より)

2022.11/4(金)18:30 高崎芸術劇場
11/5(土)15:00、11/6(日)14:00 東京文化会館
11/13(日)15:00 びわ湖ホール
問:コンサート・ドアーズ03-3544-4577 
https://concertdoors.com
※公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。