興趣異なる対照的な「第九」公演
年末恒例の「第九」も、コロナ禍によって貴重な公演となった。特にアマチュア等の有志が集う合唱団の参加は、“当たり前”だった以前と違って“かけがえのない機会”と化している。そうした中、毎年多くの聴衆を集める日本フィルの「第九」が、3つの異なる合唱団とともに行われるのは嬉しい限りだ。
今年の指揮は太田弦と小林研一郎。“炎のマエストロ”コバケンの「第九」は、定番とも言える演奏だし、熱く燃えた迫真の表現が、類い稀な高揚感と深い感動を与えてくれるのは間違いない。そこで注目したいのが太田弦だ。1994年生まれの彼は、東京藝大で学び、2015年の東京国際音楽コンクール〈指揮〉で2位ならびに聴衆賞を受賞。これまでに読響、東響、東京フィルほか多数の著名楽団を指揮し、23年4月から仙台フィルの指揮者に就任する。「第九」の指揮も19〜22年の大阪交響楽団正指揮者時代に経験しており、才気煥発なタクトでいかなる「第九」を聴かせてくれるのか? 期待は大きい。
前半のプログラムも対照的。太田はベートーヴェンの「エグモント」序曲を配し、「第九」に繋がる音楽で直球勝負を挑む。凝縮度の高いこの作品の劇的な表現も楽しみだ。対するコバケンの公演では、「トッカータとフーガ ニ短調」などJ.S.バッハの3つのオルガン曲が、多彩な活躍を続ける名手・石丸由佳の独奏で披露される。こちらは「第九」とは違ったテイストが魅力。また「第九」のソリストも異なっているので興味はさらに増す。20代の俊英、片や80代の大ベテラン…両方の公演に足を運ぶのも一興だろう。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年10月号より)
太田 弦 指揮
2022.12/17(土)17:00 横浜みなとみらいホール
12/18(日)14:00 サントリーホール
小林研一郎 指揮
2022.12/22(木)19:00 サントリーホール
12/24(土)14:30 横浜みなとみらいホール
12/23(金)19:00、12/25(日)14:00、12/27(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp
※演目とソリストの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。