小泉和裕(指揮) 東京都交響楽団

ベテランが目指す新しいブルックナー像

 都響の9月定期Aシリーズは派手さは無いものの、滋味深いコンサートとなっている。まず指揮の小泉和裕。国際的スター指揮者の登場が当たり前になった東京の音楽界だが、それも長く地道な積み上げの上に成り立っていることを忘れてはならない。1970年代から都響に客演し各職を歴任した小泉は、オーケストラの足腰を鍛え、現在の繁栄をもたらした功労者の一人。その小泉が今春から終身名誉指揮者のポストにあるが、単なる名誉職ではないところがミソだ。好評を得た3月定期のブルックナーの第1番に続き今回は第2番を取り上げるが、ますますスケールの大きな演奏を聴かせる絶好調の都響が、重厚な大曲で明晰な解釈を見せる小泉と共に原点に回帰し、新しいブルックナー像を作り上げようとしている。ブルックナー風味がより強く出ているノヴァーク版第2稿という点にも注目。
 前半、イヴァン・エロード「ヴィオラ協奏曲」の独奏は、都響の誇るソロ・ヴィオラ奏者の鈴木学。鈴木は都響に来る前、リンツ・ブルックナー管の首席奏者を務めていたが、この協奏曲、80年の初演を担ったのは鈴木のオーストリア時代の師トーマス・リーブルだ。師匠ゆずりの同曲は、現代曲とはいっても古典的な楽章構成をもち、オーケストラと肌理の細やかな協奏を繰り広げる。クラシカルなセンスが問われる佳作で鈴木も好んで取り上げているようだが、今回は指揮者もオーケストラも気心の知れた同僚、緻密な対話が期待できよう。ブルックナーとの相性もいい選曲だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)

第775回定期演奏会 Aシリーズ
9/19(金)19:00 東京芸術劇場コンサートホール
問:都響ガイド03-3822-0727
http://www.tmso.or.jp