紫園香(フルート)

バロックから現代まで、40年のキャリアを経た円熟の境地

 紫園香は、東京藝術大学附属高校、同大学、同大学院をすべて首席で卒業。20世紀最高の演奏家であり指導者と評されるマルセル・モイーズの薫陶も受けたフルーティストである。日本はもちろん、世界24ヵ国で演奏を行い、高い評価を得てきた彼女が、「時空を超えて」と題し、様々な時代の作品を並べたデビュー40周年記念リサイタルを行う。

 「今回のリサイタルで重要な存在がチェンバロです。学生時代から大変魅力を感じており、いつかこの楽器との共演で、様々な時代の作品を扱うリサイタルをやりたいと思っていました。そして5年前、ライプツィヒの聖トーマス教会で演奏した折、別の日のオルガンアーベント(夜のオルガンコンサート)で、バロックから現代まであらゆる作品をモーツァルト時代のオルガンの音色で聴けたことを通して、その想いがさらに強くなっていったのです」

 前半はオール・バッハだが、後半はヴィラ=ロボスの「フルートとチェロのためのジェット=ホイッスル」を挟み、今回の共演者でもある藤井一興の新曲、さらにマルティヌーの作品と多彩なプログラムとなっている。フルートとチェンバロのあらゆる可能性に出会えることだろう。なかでも存在感を放つのが藤井の「今賜わるアッシジの聖フランチェスコの教え」だ。

 「委嘱の際にお願いしたのは編成のみで、内容についてはすべてお任せしたところ、聖フランチェスコという多くの人々に愛される聖人をテーマとした作品を作ってくださいました。この曲は真理を表す三角形と、対比する逆三角形のモティーフによって現代世界への警告を表現しています。その間に響く鳥のさえずりは平和や自然創造からの語りかけを彷彿とさせます。現代の斬新な響きの中で、平和への普遍的な思いを味わっていただけると思います」

 作曲とチェンバロを担当する藤井と紫園は長きにわたる共演歴があり、深い信頼関係に裏打ちされたアンサンブルを届けてくれるはずだが、今回はさらにヴァイオリンの沼田園子、チェロの北本秀樹という名手も登場する。

 「沼田さんは学生時代の同期で、バロック音楽にもとても造詣の深い演奏家です。また初共演となる北本さんは通奏低音の名手でもあります。技術、表現共に多彩で深いものを求められるプログラムで、素晴らしい方々がご一緒してくださるのはとても心強いです。チェンバロの音律は、ヴァロッティ音律(バロック時代に考案された調律法のひとつ)を選びました」

 長らくあたためてきた想い、そして挑戦が込められた、紫園にとって節目のリサイタル。聴き手にも新たな体験を与えてくれることだろう。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2022年10月号より)

紫園 香 デビュー40周年記念 フルートリサイタル 〜時空を超えて〜
2022.10/17(月)19:00 東京文化会館(小)
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638 
http://www.millionconcert.co.jp