これぞ名手による上質なアンサンブルだ。野平一郎がもっとも信頼を寄せるヴァイオリニストの漆原啓子とチェリストの向山佳絵子と共演したベートーヴェンのピアノ・トリオ作品集である。野平自身が企画した2020年11月の演奏会のライブ録音であり、コンサートホールさながらの響きで三者の生き生きとした掛け合いが伝えられる。ベートーヴェンの記念すべき作品1を冠した第3番は若々しくも気品溢れる演奏。ピアノの煌めくようなタッチが印象に残る。有名な第5番「幽霊」では、第2楽章における弦楽器の伸びやかなレガートと息の長い歌心に胸を打たれる。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2022年8月号より)
【information】
CD『ベートーヴェン:ピアノ・トリオ全集・Ⅱ/野平一郎&漆原啓子&向山佳絵子』
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第3番、同第5番「幽霊」、同第6番
野平一郎(ピアノ)
漆原啓子(ヴァイオリン)
向山佳絵子(チェロ)
収録:2020年11月、王子ホール(ライブ)
ナミ・レコード
WWCC-7967 ¥2750(税込)