演奏活動60周年のヴァイオリニスト前橋汀子が、大きな節目を迎えるにあたり取り組んだのはベートーヴェン。協奏曲は意外にも初録音だが、活動初期から共演を重ねてきた秋山和慶の盤石の指揮に乗って、凛とした佇まい、音の一つひとつの瑞々しさ、決めどころでの集中力など、達人の至芸を聴かせる。ことに第2楽章は深遠だが深刻にはならない絶妙な美を実現。第3楽章は技巧が冴え、最後のカデンツァの完璧なキレには驚嘆。ライブ感あふれる圧巻の演奏だ。ロマンス第2番は慈しむような深い歌が穏やかな感動を生む、本作代表盤にもなり得る名演。超一流の何たるかを知る一枚。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年8月号より)
【information】
SACD『ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調、 ロマンス第2番 ヘ長調/前橋汀子』
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調、ロマンス第2番 ヘ長調
前橋汀子(ヴァイオリン)
秋山和慶(指揮)
オーケストラ・アンサンブル金沢
収録:2021年11月、石川県立音楽堂(ライブ)
ソニーミュージック
SICC-19061 ¥3300(税込)