谷昂登(ピアノ)

進化=深化を遂げる驚異のピアニズム

(c)井村重人

 昨年秋の日本音楽コンクールのピアノ部門で第1位および聴衆賞を受賞した谷昂登は、現在18歳である。音楽を受け止める力と、それを聴き手に伝える力には、驚くほどに成熟したものがあり、若い身体能力だけに頼らない、知的かつ情感に満ちた演奏表現には、円熟味すら感じさせる逸材である。

 そうした谷の素質をいち早く見出し、聴衆に届けようと積極的に働きかけてきたのがトッパンホールだ。同ホールには15歳でデビュー、その後も谷の音楽的成長を後押しし続けてきた。そんなトッパンホールを、谷は「親しみを感じ、自分の出したい音が出せるホール。お客さまの共感もよく伝わる」と語る。

 4月のリサイタルは、歴史と思想と芸術性とが密接に結びついた、谷らしい選曲で開かれる。冒頭はベートーヴェンのソナタ第24番「テレーゼ」。ベートーヴェンの「カンタービレ期」を伝える美しく朗らかな2楽章構成のソナタだ。続くシューマンの「幻想曲」は、リストによって呼びかけのなされた「ベートーヴェン記念碑建立募金」に貢献するために書かれた作品。第1楽章の終わりにはベートーヴェンの連作歌曲「遙かなる恋人に」の一節が引用されている。そして締めくくりには、リストのソナタ ロ短調を演奏する。谷が優勝した日本音楽コンクールの第3次予選でも演奏した単一楽章の大作であり、リストがシューマンに捧げた名曲だ。作品が生み出された多様なコンテクストに関心を持ち、一つひとつを丁寧に関係づける谷の演奏に、私たちはきっと心を震わされるに違いない。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2022年4月号より)

2022.4/27(水)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 
https://www.toppanhall.com