白井 晃(演出家/俳優/KAAT神奈川芸術劇場アーティスティック・スーパーバイザー) × 三宅 純(作曲家)

音楽にインスパイアされた世界観

(C)二石友希

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 今春、KAAT神奈川芸術劇場のアーティスティック・スーパーバイザーに就任した演出家・白井晃。就任後初、待望の演出作が『Lost Memory Theatre』だ。今作は、作曲家・三宅純の同名アルバムから立ち上げる舞台という、とびきり野心的な試みによるもの。これまで多くの作品を世に送り出してきた2人の、さらなる進化が目撃できる舞台になりそうだ。
白井(以下S)「僕は劇団時代から、演劇と音楽の関わりについて、ずっと模索し続けてきました。言葉の意味合いと同じ向きの音楽で、感情を説明すれば場面が成立するかといえばそうではなく、逆方向の音楽のほうが効果や膨らみを出せる場合もある。
 未だに理屈は分かりませんが、三宅さんには最初の創作から、自分が求める心情を増幅させる音色を直感的に理解していただけて、すぐに音楽として返してもらうことができた。しかも三宅さんの音楽は作品を膨らませるだけでなく、思いもよらない方向へと導いてくれる。そんな幸せな経験は他にあまりなく、以来こんなにも続けてご一緒させていただくことになっています」
 白井と三宅の出会いはクルト・ヴァイルの『三文オペラ』(2007年)がきっかけだったという。
三宅(以下M)「僕の最も好きな作曲家の一人であるヴァイルと向き合うという好機と大きな課題を与えていただき、加えて非常に真摯で丁寧な対応をして下さった。普段は海外の荒くれアーティストたちとの仕事が多いもので(笑)、その人としての姿勢にまず感銘を受け、すぐに信頼できるようになりました。日本の演劇人ではまだ白井さんとしか仕事をしたことはありませんが、どの作品でも妥協なく、最後の最後までつくり続ける姿勢には毎回感銘を受けます」
 三宅はパリ在住なので、仕事はネット上のやりとりが中心となる。
S「そのなかで、新譜制作の過程をネットの共有ボックスを介して知ることができた。そのアルバムが『Lost Memory Theatre act-1』。もともと三宅作品のファンだった僕は、すっかりこのアルバムにヤラれてしまい(笑)、アーティスティック・スーパーバイザー就任が決まったあと、KAATという劇場にどんな作品がふさわしいか、僕が考える劇場とはどんな場所なのかと考えるうち、『アルバムの楽曲から舞台を立ち上げる』という、いつもとは逆の発想が浮かんだのです」
 そうして2人の“探求”が始まる。
M「最初に白井さんからアイディアを聞いたときは、『こんな冒険を劇場がOKしてくださるはずはない』と思いました。だからGOが出たときは本当に驚いて。僕は音楽の意味をひとつだけに限定してしまうことに非常に抵抗がありますし、分かりやすい終止形のある音楽も創っていません。今回のような機会は嬉しいのと同時に、音楽の中に敢えて残してきた『余白』が埋まることを怖いとも思う。けれど創作の過程では違う要素が大量に入ってくるでしょうし、舞台の着地点は日々違っても良いはず。だから、ある楽曲に対してひとつだけの意味を持たせすぎず、『と言ってはいるけれど、本当は違うよね』というニュアンスを残せるような表現を、これから白井さんと探していくことになるのかな、と思っています」
 この舞台に合わせ、新譜『Lost Memory Theatre act-2』のリリースが決定。舞台は2枚のアルバムから白井が選曲・構成し、テキストを気鋭の劇作家・谷賢一(劇団DULL-COLORED POP主宰)が執筆。振付は日本のコンテンポラリー・ダンスシーンを牽引する森山開次が担当。音楽、歌、ダンス、アクティングが渾然一体となる誰も観たことのない劇世界が展開されるという。山本耕史、江波杏子などの実力派俳優たちとも作品をどう作り上げていくかも興味津々だ。
S「ダンサーのオーディションも済み、着々と準備は進んでいます。歳月とともに劇場に堆積する表現者や観客たちの記憶と時間が、再び命を得て舞台上でうごめき、観る人を惑わすような作品になればいいな、と。さらには、今この時代の日本に生きていることの意味や、自分たちの立ち位置を考えられる接点も作品の中に設けたい。
 これまでは自分の衝動や欲求に基づいた創作が中心でしたが、新たな職域を得たことでより広い視野を持って活動していかなければいけなくなるはず。その点でも、この舞台は僕のKAATに対する所信表明になると思っています」
取材・文:尾上そら
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年8月号から)

『Lost Memory Theatre』
原案・音楽:三宅純 構成・演出:白井晃 テキスト:谷賢一
振付:森山開次 
出演/山本耕史、美波、森山開次、白井晃、江波杏子
演奏/三宅純(ピアノ他)、宮本大路(フルート他) 他
8/21(木)、8/22(金)、8/25(月)、8/27(水)、8/29(金)19:00
8/23(土)、8/24(日)、8/28(木)、8/30(土)、8/31(日)15:00
KAAT神奈川芸術劇場
問:チケットかながわ0570-015-415
http://www.kaat.jp

9/6(土)15:00、9/7(日)14:00 兵庫県立芸術文化センター(中)
問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
http://www1.gcenter-hyogo.jp

 
【CD】
『Lost Memory Theatre act-2』
p-vine PCD-26058 
¥2600+税 8/20(水)発売

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