新国立劇場 開場25周年記念となる2022/23シーズン ラインアップを発表

 新国立劇場は3月1日、開場25周年となる2022/23シーズンのラインアップ説明会を行い、大野和士・オペラ芸術監督が新シーズンの演目を発表した。
(2022.3/1 新国立劇場 オペラパレス Photo:J.Otsuka/Bravo)

*吉田都・舞踊芸術監督より同日発表されたバレエ&ダンス ラインアップ会見の模様はこちら

左より:小川絵梨子(演劇芸術監督)、大野和士(オペラ芸術監督)、吉田都(舞踊芸術監督)

 大野芸術監督5シーズン目となるオペラ部門は、ヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》(新制作、22年10月)で開幕する。ロラン・ペリー演出で、バロック・オペラシリーズ第1弾として19/20シーズンに予定されていた延期公演だ。
 新制作ではその他、同劇場で初めての上演となるムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》(11月)、レパートリー作品として加わるヴェルディ《リゴレット》(23年5月〜6月)の3演目に、レパートリー7演目を含む計10演目が上演される。大野はそのうち開場25周年記念公演と銘打った2演目(《ボリス・ゴドゥノフ》とプッチーニ《ラ・ボエーム》(23年6月〜7月))で指揮台に立つ。

【新制作】
●ヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》

(22年10月、指揮:リナルド・アレッサンドリーニ、演出:ロラン・ペリー)
●開場25周年記念公演 ムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》
(22年11月、指揮:大野和士、演出:マリウシュ・トレリンスキ)
●ヴェルディ《リゴレット》
(23年5月〜6月、指揮:マウリツィオ・ベニーニ、演出:エミリオ・サージ)

【レパートリー】
●《ドン・ジョヴァンニ》
(22年12月、指揮:パオロ・オルミ、演出:グリシャ・アサガロフ)
●《タンホイザー》(23年1〜2月、指揮:アレホ・ペレス、演出:ハンス=ペーター・レーマン)
●《ファルスタッフ》(23年2月、指揮:コッラード・ロヴァーリス、演出:ジョナサン・ミラー)
●《ホフマン物語》(23年3月、指揮:マルコ・レトーニャ、演出:フィリップ・アルロー)
●開場25周年記念公演《アイーダ》
(23年4月、指揮:カルロ・リッツィ、演出:フランコ・ゼッフィレッリ)
●《サロメ》(23年5月〜6月、指揮:コンスタンティン・トリンクス、演出:アウグスト・エファーディング)
●開場25周年記念公演《ラ・ボエーム》(23年6月〜7月、指揮:大野和士、演出:粟國 淳)

 大野は新シーズンのラインアップ紹介の前に、先頃上演した《さまよえるオランダ人》、《愛の妙薬》での日本人歌手について言及した。オランダ人役には当初、同役の世界最高峰の歌い手であるエギルス・シリンスが予定されていたが河野鉄平に、ゼンタ役は田崎尚美に変更されての上演となった。
 「入国制限の措置がとられ外国人の来日が不可能となり、日本人オーディションで河野鉄平さんにオランダ人としての可能性を見出しました。さらにそこでの大発見は、ゼンタ役で出演された田崎尚美さん。彼女の声をはじめて聴いたときに、“日本のブリュンヒルデになる”、と即刻キャスティングしました。
 コロナ1年目に5演目続けてキャンセルとなり、どんな形でも公演を続けたいという想いでした。お客様にも熱狂的に迎えていただき、頑張ってくれた日本人歌手、助けてくれた指揮者のガエタノ・デスピノーサさん、劇場のコロナ対策のもとに乗り切ることができました」と振り返る。

 新シーズンのラインアップについては「何が起こるか分からない、何が起きてもなんとかなるシーズン」と掲げ、コロナが高止まりしている状況で「いつ何時、そうした状況が繰り返されるかもしれないことを頭に入れながら、丁寧に注意深く選んだ」と例外的なシーズンであるとし、「すべて日本人キャストで上演可能な作品」だという。

 上演予定の10演目のうち4演目が19/20シーズンからの延期公演となっており、《ドン・ジョヴァンニ》では、20年3月に予定されていた《コジ・ファン・トゥッテ》の出演者を起用。《ホフマン物語》と《サロメ》は、予定されていたほぼ同じ指揮者、キャストでの上演となる。《さまよえるオランダ人》で出演が叶わなかったシリンスが、《ホフマン物語》でミラクル博士・ダペルトゥットをうたうのは注目だ。
 「出演者をキャンセルして、新しい出演者を契約するのは非常にコストがかかること。延期をする場合、世界中の劇場ができるだけ同じキャストで上演しているように、新国もそれを踏襲した形です。このシリーズは、新制作の《ボリス・ゴドゥノフ》を除いて演目的に新しいものは少ないが、25周年に相応しい3演目と、キャスティングは目を見張るものがあります」と意図を語る。

 オープニングを飾る《ジュリオ・チェーザレ》は「恋と政治の駆け引きのオペラ」で、タイトルロールにはバロック・オペラのスペシャリスト、マリアンネ・ベアーテ・キーランドが同劇場初登場。演出のロラン・ペリーも来日予定だ。 
 ロシア・オペラの《ボリス・ゴドゥノフ》は、ポーランド国立歌劇場との共同制作で、ポーランドで初演された後に東京での上演となる。演出はメトロポリタン歌劇場の開幕公演などを手掛ける、ポーランド国立歌劇場芸術監督のマリウシュ・トレリンスキが担当。平面的な2層の舞台上に様々なキューブ状の部屋の内部で物語が繰り広げられ、光を多様した舞台になるという。大きな合唱を伴う作品だが、「ポーランドでの上演は80名を想定いるそうです。東京上演時は状況次第となります」。

《ボリス・ゴドゥノフ》の舞台装置を後ろのパネルを使って説明する大野芸術監督

 レパートリー作品では、5年ごとの周年に上演されている、フランコ・ゼッフィレッリ演出の豪華舞台で人気の《アイーダ》。世界的な劇場に出演している名ソプラノ、セレーナ・ファルノッキア(アイーダ)を筆頭に、ウィーンなどで活躍しているロベルト・アロニカ(ラダメス)、「めきめき頭角を現している」ユディット・クタージ(アムネリス)ほか、国内外の選りすぐりの歌手が登場する。《タンホイザー》では、同劇場でもおなじみ、世界的なヘルデンテノール、ステファン・グールドがタイトルロールを歌う。

 今後について大野は、芸術監督就任以来4シーズン目までは年4演目の新制作の上演を続けてきたが、コロナ禍による中止公演が続いたことによる財政面などを考慮し、22/23シーズンよりしばらくは新制作3演目とするという。ただ23年から26年までに予定されている新制作は東京発の上演で、「そのうち2演目は大がかりな新制作で組み立てている」という。

 また、当初22/23シーズンに上演予定だった「日本人作曲家委嘱作品シリーズ」は次シーズンに持ち越し、就任当初より掲げてきた「積極的な」ラインアップは「23/24シーズン以降にお届けできるだろう」と構想をのべた。
 日本人歌手のオーディションは「新しい才能を発掘するいい機会」で、今後予定されている「子どものためオペラ」の作品では、オーディションで見出した歌手を中心に配役される。今後も「日本人の実力ある歌手の起用には重きを置いていきたい」と意向を語った。

 その後の質疑応答では、現在の世界情勢をふまえ「芸術と社会」の関わりについて各芸術監督に問いかけられ、大野は前日に東京都交響楽団の定期演奏会でショスタコーヴィチの交響曲10番を指揮したことに加え、次のように心情を語った。
「この劇場では、政治的に起こっていることと芸術分野の出来事は分離して考えています。芸術家は心の自由を人々に与えるためにその才能を磨く集団で、当然のことながら政治的な区割りをはるかに超えたところで存在しています。ある意味言葉を介さずともコミュニケーションができる訳です。現実的な枠組みの中で論じられるべきではないというのが私の考えです」

新国立劇場 
https://www.nntt.jac.go.jp
オペラ 2022/2023シーズンラインアップ 
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/news/detail/6_022117.html