ニュウニュウ(ピアノ)

神童ピアニストの変貌を聴く

 10代後半の若者の身体的、精神的な発展は著しい。12歳の初来日で披露した、目を見張るほどのテクニックとあどけない表情が記憶に残る方も多いだろうが、17歳になったニュウニュウは、明晰な頭脳と強い意志を持ったピアニストへと大きな変貌を遂げた。
「今はアメリカで学んでいて、9月には大学に進学しますが、音楽学校以外の選択肢も考えています。音楽の他にもさまざまな知識がある、社会に貢献できるピアニストになりたいのです。ジャンルを問わず、音楽というものは人類にとって大切なエンタテインメントです。大きな意味で言えば、私たちがより良い人間になるための助けとなる存在だと思います。僕自身が楽しみ、そして聴衆のみなさんにも喜びを与えられるようでありたいです」
 ぐんぐん伸びて186センチになったという身長もさることながら、発言にも大いなる成長が窺える。早くからキャリアを積んできただけに、すでに一人の音楽家として強い責任感も持つようになった。
 今回のツアーでは、日本の聴衆が求める音楽を考慮しつつ、今取り組みたいと感じる作品を選んだという。
「感情の移ろいを表現したいと考えています。日本ではショパンがとても人気なので、冒頭は穏やかなノクターンから始めます。必ず取り上げるようにしているソナタ作品としては、ベートーヴェンのさまざまな感情、怒りや苦しみが込められた『ワルトシュタイン』を。後半は、軽やかなメンデルスゾーンの無言歌集から数曲を演奏した後、ムソルグスキーの『展覧会の絵』を続けます」
 新しい作品に取り組むときは、まず楽譜を読み込み、続いてインターネットでいろいろな演奏を聴いて、どんな解釈があるのかを俯瞰してみるというから、若い世代のピアニストらしい。しかしそれはあくまで初期段階のことで、中盤からは人の演奏を聴かずにじっくり自分の中で音楽を練り上げる作業に入る。
「『展覧会の絵』は、楽譜に厳格なものからほとんどトランスクリプションのようなものまで、多様な解釈の演奏があります。僕自身は、楽譜に書かれたことに忠実な演奏を目指してゆくつもりです。最初に登場する『プロムナード』が繰り返し現れますが、こうして度々冒頭に戻るところに、ギャラリーで道に迷った人間の孤独のようなものを思い浮かべます。さらに、このフレーズが後半に進むに従い高潮していくところには、次々に新しい絵画を経験することで、その人物の精神が複雑に入り組んだものへと変容してゆく様を感じます。作品を通して、作曲家の魂を表現したいです」
 磨き上げられた技術に加え、精神的な深みが加わったニュウニュウの音楽。自らの耳で確かめておきたい。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2014年6月号から)

★8月2日(土)・サントリーホール
問:チケットスペース03-3234-9999
他公演 
7/21(月・祝)・アクトシティ浜松 問:静岡朝日テレビ054-251-3302
7/23(水)・岡山シンフォニーホール 問:086-234-2010
7/26(土)・岐阜/多治見市文化会館 問:0572-23-2600
7/31(木)・高知県立県民文化ホール 問:高知さんさんテレビ088-880-0033
8/3(日)・大阪/ザ・シンフォニーホール 問:ABCチケットインフォメーション06-6453-6000