ついに実現する“マラ9”の深き境地
高関健が東京シティ・フィル常任指揮者に就任したのは2015年。7年目のシーズンの最終月となる3月、ティアラこうとう定期でブラームス第1番、東京オペラシティの定期演奏会でマーラー第9番、高関が定期では取り上げてこなかった名作交響曲2作に、満を持して挑む。特に第350回という節目のマーラーは、これまでの集大成となる。
以前は定番演目だったマーラーの交響曲だが、20年3月からの2年間、東京のプロ楽団による演奏が実現したのは11曲中の半分ほど。ひときわ複雑なテクスチュアをもち、編成も規模も大きめなためか、第9番の実演は未だに実現されていなかった。2年の時を経て、いよいよ“マラ9”の世界に浸れるのである。
しかも高関と東京シティ・フィルの演奏で聴けるということに、なにより深い喜びを覚える。どんな複雑な楽曲でも見事なバトンテクニックで統率しながら、不思議なほどに聴く者の心を温かくする演奏を聴かせ続けてきた高関。本作でも同様に、恣意的な解釈や感情を押し付けることなく、緻密にオーケストラ芸術の粋を聴かせながら、最大限の感動を引き出すに違いない。
マーラー第9番といえば「死への恐怖」「生への執着」「告別」等のイメージがあるかもしれないが、いまの彼らの演奏ならば、それらをも包み込む「安息」そして「人生の喜び」にすら到達する、特別な境地が体験できそうな予感がある。いずれにせよ、この困難期に実現する“高関のマラ9”、今年の最重要公演のひとつになるものと確信している。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年3月号より)
第350回 定期演奏会
2022.3/26 (土) 14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp