笹沼樹と原田慶太楼が齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞

左より:笹沼 樹 原田慶太楼

 2月24日、第20回 齋藤秀雄メモリアル基金賞の受賞者が発表され、同日、都内で贈賞式が行われた。式には、受賞者の笹沼樹(チェロ部門)、原田慶太楼(指揮部門)、選考委員の堤剛、広上淳一らが出席。この賞はチェリスト・指揮者・教育者の故・齋藤秀雄にちなんで、2002年、財団法人ソニー音楽芸術振興会(現・公益財団法人ソニー音楽財団)によって創設された。小澤征爾を名誉顧問に、音楽芸術文化の発展に貢献し今後さらなる活躍が期待される若手チェリストと指揮者を顕彰する。

 選考委員の堤は、チェロ部門の受賞について以下のように述べた。
「笹沼さんが桐朋の高校に入学されてから、音楽的なことを含めた様々な観点からアドヴァイスしてきましたが、常々感心していたのは彼の真摯な姿勢と論理的な思考法、そして飲み込みの早さでした。これは、齋藤先生が目指された教育法と相通ずることです。これからもひたむきな向学心や向上心を持って大きく成長されることを期待しています」

 受賞のスピーチで、笹沼は次のように喜びを語った。
「齋藤先生のお名前を冠した賞をいただいたことを光栄に思います。高校在学中、ソロと室内楽、そしてオーケストラ、この3つを自分の演奏活動の軸にして音楽家の道を志すことを決心しました。尊敬する先生や共演する音楽家に恵まれ、音楽が持つ素晴らしさに感動する日々です。そうしたなかで、複数のフィールドでの活動がそれぞれ中途半端になっていないか不安になる瞬間もあるのですが、この度の受賞が、これまでやってきたことは間違いではなかったという励みとなり、また、今まで信じて機会を与えてくださった方々への恩返しとなったのかなと思います。コロナが収まったら海外でも積極的に活動していきたいです」

続いて、指揮者部門の受賞について、堤は以下のような言葉を贈った。
「原田さんは、直接の指導はさせていただいてはおりませんが、齋藤先生と小澤先生が築き上げてこられたものがしっかりと継承されていることを実感し、嬉しく思っています。アメリカのサヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督としてのキャリア、そして東京交響楽団の正指揮者としてますます幅広く活動をされていく原田さんですが、交響曲だけでなくオペラの指揮者としてのご経験も豊かです。教育プログラムに強い関心を持っていらっしゃることや、日本の若い作曲家の作品も積極的に取り上げている姿勢を大変頼もしく思います」

 今回の受賞にあたり、原田は以下のように述べた。
「アジア人の僕が世界でキャリアを持てるのは、マエストロ・サイトウとマエストロ・オザワ、秋山先生、広上さん、大野さんといった指揮者のおかげだと、大先輩に心から感謝しています。ですから、この受賞は僕にとって本当に意味があります。僕の師匠マゼールが言った大切な言葉は、『ケイタロウしかできない、とてもユニークなことはいったい何か』。その答えを見つける旅を続けていますが、日本で音楽活動を続けるにあたり自分が持っている知識やクリエイティビティを常に改善して、音楽を通じて日本の皆さんの心がひとつになり、笑顔で音楽を楽しめるような環境を作りたい。それが師匠の質問の答えに近づくのではと思っています。今回の受賞は今、自分がやっている取り組みに対する勇気をいただき、自分の夢へと一歩前進することができました」

 昨年はオンライン開催となった贈賞式だが、笹沼によるJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲第3番「ブーレ」が最後に披露され、式に華を添えた。

チェロ部門 笹沼樹
東京都出身。桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)チェロ科を首席卒業後、桐朋学園大学ソリストディプロマコース修了、ならびに学習院大学文学部を卒業。ソロでは、2014年の第12回東京音楽コンクール弦楽部門において第2位入賞。室内楽では、2013年にザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクール2013での優勝に続き、2016年の第65回ARDミュンヘン国際コンクール弦楽四重奏部門では第3位に入賞、あわせて委嘱新作特別賞を受賞。カルテット・アマービレ、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団のメンバーとしての活躍も注目されている。チェロをヴァーツラフ・アダミーラ、古川展生、堤剛に師事。

指揮者部門 原田慶太楼
1985年、東京生まれ。指揮法をサンクトペテルブルクで学び、2006年、モスクワ交響楽団を指揮してデビュー。シンシナティ交響楽団、リッチモンド交響楽団のアソシエイト・コンダクターなどを経て、2020年シーズンよりサヴァンナ・フィルハーモニック音楽&芸術監督に就任。オペラ指揮者としても実績が多く、アリゾナ・オペラ、シンシナティ・オペラ、ブルガリア国立歌劇場、ノースカロライナ・オペラなどで活躍。2010年にタングルウッド音楽祭にて小澤征爾フェロー賞、2013年にはブルーノ・ワルター指揮者プレビュー賞を受賞している。2021年4月、東京交響楽団の正指揮者に就任し、国内外で今後の活躍が注目される指揮者の一人。

齋藤秀雄メモリアル基金賞
https://www.smf.or.jp/saitohideo/