ブラームスの人生を俯瞰する熟練のデュオとピアノ五重奏
幼少時から半世紀以上にわたり音楽で絆を深めてきた兄弟の世界が広がる。3月20日、紀尾井ホールで開かれる「小森谷泉 × 小森谷巧 兄弟の音宇宙」だ。
「弟とは5歳違い。彼がヴァイオリンを始めた頃から私はピアノで伴奏していた」とピアニストの兄、小森谷泉は振り返る。ヴァイオリニストの弟、小森谷巧は読売日本交響楽団のコンサートマスター。今回は2人と長年親しいヴィオラの佐々木亮のほか、読響から首席チェリストの富岡廉太郎、ヴァイオリニストの川口尭史(たかし)の実力派を加え、小森谷兄弟がリードする室内楽を聴かせる。
プログラムの中心はブラームスだ。兄弟デュオによる1曲目「スケルツォ ハ短調」は、シューマンと彼の友人ディートリヒ、それに青年ブラームスが共作したヴァイオリン・ソナタのうち、ブラームスが作曲した第3楽章に当たる。同ソナタは「自由に、しかし孤独に」のドイツ語の頭文字を示す「F.A.E.ソナタ」の愛称で知られ、シューマン家でヴァイオリニストのヨアヒムがブラームスのピアノ伴奏で初演した。
「弟の選曲。勝利の意味合いが随所に出てくるブラームスらしい作品で、気持ちが高ぶる。皆さんを元気づけたい」
トリはブラームス室内楽の傑作「ピアノ五重奏曲ヘ短調 op.34」。
「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務めた安永徹さんらと若い頃に欧州各地で演奏した曲。今では私もブラームスより歳を重ね、作曲家の一生を俯瞰できる。彼がその年齢で何を考えて曲を書いたかが読める。作曲家は自分の心を演奏家に伝え、演奏家はその心を聴衆に伝える。音楽的な深い意味合いを表現するのは楽しい」
ブラームス晩年のピアノ小品集も得意としてきた小森谷。心に響く熟練の室内楽を期待できそうだ。このほかに、弦楽メンバーはドヴォルザーク「4つのロマンチックな小品 op.75a」、ショスタコーヴィチ「弦楽四重奏曲 第7番 op.108」も演奏する。
小森谷は2018年から兄弟の母校、桐朋学園大学の音楽学部学部長を務め、22年3月末で退官予定という節目でもある。「任期中は新型コロナ対策に苦慮し、リモート・レッスンの導入も余儀なくされた」。困難な中でも21年には仙川キャンパスに桐朋学園宗次ホールを開設した。「本学には高校から大学までの7年間、生徒や先生が兄弟のように教え合う伝統がある」。小森谷兄弟の音宇宙では、その伝統も感動的に聴かせてくれるだろう。
取材・文:池上輝彦
(ぶらあぼ2022年3月号より)
桐朋学園音楽部門70周年記念 小森谷 泉 × 小森谷 巧 兄弟の音宇宙
2022.3/20(日)14:00 紀尾井ホール
問:クレオム info@creomu.com
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