ハーバード卒の話題のヴァイオリニストが弾き振りでCDデビュー
廣津留すみれの名前を初めて知ったのは、ジュリアード音楽院の学生として欧州でのバッハ・コレギウム・ジャパンのプロジェクトに参加していた時だった。その後、著書『ハーバード・ジュリアードを首席卒業した私の「超・独学術」』を出したと知り、そのマルチぶりに驚嘆。卒業後は米国で起業したそうだが、コロナ禍以降は主に日本を拠点とし、今や著書3冊、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』のコメンテーターも務めるなど、多方面での活躍はご存知のとおり。
その廣津留がこのたびメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とバッハの「シャコンヌ」をカップリングしたファーストCDをリリースした。過去にもレコーディングには参加してきたが、ソリストとしては初めて。チャンスを与えてくれたのは、デア・リング東京オーケストラ(DRT)を主宰するプロデューサーの西脇義訓だった。昨年9月の公演で共演予定だったジョセフ・リンが来日できなくなった時に、西脇が以前、講演会で聴いて注目していた廣津留に代役をオファーしたのだ。
メンデルスゾーンは所沢市民文化センター ミューズでの演奏会のライブ収録で、廣津留の弾き振り。DRTは普段からコンサートマスターやトップを置かず、奏者たちを離したり、楽器ごとにまとめないなどユニークな配置を様々に試みてきたが、初めての共演はどうだったのだろうか。
「リハーサルでは、一人ひとりがどういう音楽を作りたいか意見を出してくださり、とてもオープンな雰囲気の中で曲を作り上げることができましたし、本番では後ろから流れてくる波動に乗っかって全身で演奏することができました。みなさんの一つの作品に向かっていく気持ちが音からよく伝わってきました」
一方、「シャコンヌ」は公開録音という形をとり、何度かテイクを重ねながら作り上げた。
「今回、録音を通して自分の音と改めて向き合えたのは貴重な体験でした。演奏を聴き返しながら、『自分の弾き方ってこういう特徴があるんだ』とか、『こういう風に聞こえているんだ』とか、新しい発見の連続でしたね」
小学生の頃から「学業と音楽を両立させると決めていた」という廣津留にとって、ハーバード大学はいろんな分野の友人と切磋琢磨できた理想的な環境であったという。当初は音楽の道に進むつもりはなかったが、ある時ヨーヨー・マのシルクロード・プロジェクトに参加する機会があり、「教育や慈善活動などさまざまなプロジェクトに携わる彼の姿に感銘を受け、音楽をツールとして社会に貢献できる方法はこんなにもあるんだと気づき、私もやってみたいと思った」と話す。その視野の広さや柔軟な発想を活かし、クラシック界にも新風を吹き込んでくれるにちがいない。
取材・文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2022年3月号より)
第10回 調布国際音楽祭 2022 お昼のクラシック
2022.6/24(金)13:00 調布市グリーンホール
問:チケットCHOFU 042-481-7222
https://www.chofumusicfestival.com
※廣津留すみれ出演
CD『メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲/J.S.バッハ:シャコンヌ』
N&F NF29601
¥オープンプライス
2022.2/21(月)発売