須藤慎吾(バリトン)

興奮を呼ぶ豊かな声量と深い情感


 舞台で今、最も「覇気」を感じさせるバリトン——須藤慎吾の歌を聴くたび、そう思わずにはいられない。藤原歌劇団のホープとして期待の須藤、5月にはCDデビューを果たし7月にはそれを記念してのリサイタル、秋も藤原歌劇団《ラ・ボエーム》(11/2・Bunkamuraオーチャードホール)など大舞台が目白押しである。
「初アルバム『アリエ 〜オペラ・アリア集』では、これまで歌う機会の多かったアリアを11曲収録しました。べッリーニの《清教徒》やドニゼッティの《ルチア》といったベルカントものからヴェルディの《リゴレット》《マクベス》《オテッロ》など、近代からはジョルダーノ《アンドレア・シェニエ》の〈祖国の敵〉も入れました。これは恩師のL.サッコマーニが最もこだわる一曲です。先生は言葉一つの表現についてもすごく厳しかったですね。だから、収録の際も先生の存在を背中に感じながら歌いました。その成果が皆様の耳に届けばと思います」
 1999年に渡伊し、師のもとで2年も発声法の習得に努めた須藤。「どこにも出演するな」と厳命され、日々、声の響かせ方のみを追求したという。
「自分の発声に悩みぬいての渡航でしたので、留学仲間から心配されつつも師の教えを信じて頑張り続けました。そして2年後のある日、サッコマーニ先生が突然『お前の声が分かったよ! もうオペラを歌っていいぞ!』と言ってくれたのです。その言葉は本当に嬉しかった。それで、ミラノの小さな劇場からオペラに出演していきました。《オテッロ》のイアーゴや《イル・トロヴァトーレ》のルーナ伯爵もこの時期に習得しました。ルーナの〈君が微笑み〉は本当に難しい一曲ですね。バリトンなら皆そう思うでしょう。CDを聴いて下さる皆様のご感想を楽しみにしています」
 ステージの威容とは対照的に、ふだんの物腰はごく控えめな須藤。剛柔併せ持つ個性の成り立ちを詳しく尋ねてみた。
「兄が洋楽好きで、小学生でスコーピオンズを聴かされましたが(笑)、高校の時に県の声楽コンクールで第2位をいただき、そこから歌の道が始まりました。11月の《ラ・ボエーム》で共演するテノールの村上敏明さんとは国立音大の同期です。自分は仲間にも本当に恵まれたと思います。テノールもバリトンも一緒になってアクート(高音)合戦をしたり、酒も無茶苦茶呑んだりしましたが、どれも楽しい思い出です…。ところで、無茶といえば、事務所に内緒で空手を長年続けていたんですよ(笑)。あの佐藤勝昭先生に直に教わったのが自慢でしたが、今年はそれも止めて歌手活動に邁進です!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2014年6月号から)

CDデビューリサイタル
★7月12日(土)・王子ホール
問:フィオーレ・オペラ協会事務局 070-5582-7491

【CD】『アリエ 〜オペラ・アリア集』
ソニー・ミュージックダイレクト
MECO-1021(SACDハイブリッド盤)
¥2857+税

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