都響スペシャル マーラー:交響曲第10番

マーラーが語りかける最後のメッセージ

エリアフ・インバル(C)堀田力丸
エリアフ・インバル(C)堀田力丸

 都響は今、東京のオーケストラの中で最も勢いのある団体の一つだ。昨シーズンまで音楽監督を務めていたエリアフ・インバルによって鍛え抜かれた合奏力。そこから生まれた数々の名演はファンの心にも深く刻まれているはずだ。
 彼らの活動の中核にいつもあったのは、マーラーの交響曲だ。いうまでもなくインバルはマーラー解釈の第一人者であり、都響もまた若杉弘、ガリー・ベルティーニといった前任者のもとでマーラー演奏の知見を積み重ねてきた。両者は 2012年より交響曲を番号順に取り上げる『新マーラー・ツィクルス』に取り組み、今年3月の第9番をもってこのプロジェクトは終了した。しかしマーラーには全体のプランをあらかた完成させながらも、その死によって途絶したもう一つの交響曲がある。この未完の第10番は、限られたスケッチに加筆する形でいくつかのヴァージョンが刊行されているが、その最初の試みとなったのがデリック・クック補筆版である。実はインバルは若き日に、実際の演奏をもとにクックとディスカッションを重ねている。それは後に刊行された改訂版にも反映された。こうした経験は、今回の上演にも存分に発揮されるに違いない。
 マーラーが9曲の交響曲で描いた世界が、人間の生から死への歩みであったとするなら、第10番は死の世界から現世への語りかけのようにも見える。それは補筆のプロセスのみならず、冥界をさまようような開始から聴き手を激しく揺さぶる強烈な不協和音まで、内容全体に及んでいる。黄泉の国の声を、現在望みうるベストのコンビがどう再現してくれるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年7月号から)

7/20(日)・7/21(月・祝)14:00 サントリーホール
問:都響ガイド03-3822-0727 
http://www.tmso.or.jp