井上道義(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

クセナキスの日本初演作品も体験できる刺激的なプログラム

 2月の東京フィル定期演奏会は、指揮の井上道義が「ぜひ東京フィルと演奏したい」と熱望する濃厚なプログラム。なかでも注目は、2022年に生誕100年を迎えるヤニス・クセナキスのピアノ協奏曲第3番「ケクロプス」(1986)の日本初演だ。

 クセナキスは、祖国ギリシアでの反ナチズムの地下抵抗運動で左目を失明し投獄、死刑宣告を受けるなど厳しい時代を生きた作曲家。その音楽は荒々しくも強靭で聴き手の心に突き刺さる。ピアノ独奏は大井浩明。1996年に井上指揮のクセナキス「シナファイ」(ピアノ協奏曲)でソリストを務め、その録音を聴いた最晩年のクセナキス自身の推薦で全集録音の独奏ピアノ奏者として起用されるなど作曲家の信頼も厚い。今回の「ケクロプス」(ギリシア神話のアテーナイ(アテネ)の初代王、半獣半人)は、難曲「シナファイ」以上の高度な技巧がピアノに要求され、最大編成(92奏者)のオーケストラと対峙する苛酷な作品。クセナキス不動の固い圧倒的な音響とそこから聞こえる微細な音響の綾。その共存が作品の魅力だが、チェンバロからモダンピアノまで鍵盤楽器に精通する大井なら、それを存分に引き出してくれるだろう。

 そのほかエルガーがイタリア滞在中に作曲した序曲「南国にて」は、オーケストラが豊かに鳴り響き、中間部のヴィオラ独奏のセレナーデも美しい佳曲。後半は、マエストロの十八番のショスタコーヴィチ。交響曲第1番は、作曲家の情熱が詰まったデビュー作。好調の東京フィルとも刺激的で痺れる演奏が期待される。
文:柴辻純子
(ぶらあぼ2022年2月号より)

第144回 東京オペラシティ定期シリーズ
2022.2/24(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第964回 サントリー定期シリーズ
2/25(金)19:00 サントリーホール
第965回 オーチャード定期演奏会
2/27(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
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