ベートーヴェンはどの音にも必ず何か意味がある
近年、弦楽四重奏界が活況を見せている。若手奏者たちによる団体が次々に結成され、それぞれが魅力的な演奏を展開し、聴衆の選択肢が増えているのだ。なかでも2015年結成ながら、深く刺激的な演奏で熱心なファンを獲得している、クァルテット・インテグラの活躍は顕著だ。19年のNHK Eテレ『ららら♪クラシック』に“ベートーヴェンを愛してやまない”団体として出演、鮮烈な演奏を披露したことも注目を集めた。
山本一輝(ヴィオラ)「意図していなかった(番組での)紹介のされかたでしたが(笑)、結果的には良かった。ベートーヴェンはどの音にも必ず何か意味があるという信頼感があり、常に新しい発見があって楽しいです」
三澤響果(第1ヴァイオリン)「やはりベートーヴェンは特別な存在で、外せないレパートリー。早く全曲を演奏会で弾きたいですね」
その彼らが大晦日の名物企画「ベートーヴェン弦楽四重奏曲【9曲】演奏会」に、出演3団体の一角として初登場する。「若い世代の常設の四重奏団に新しく頼みたい」という主催者による抜擢で、期待は相当に高い。耳の肥えた室内楽ファンが集まる公演だが、「自分たちの演奏は見失わずに新しいことができたら」と浮き足立たずに意気込む。
菊野凛太郎(第2ヴァイオリン)「聴きに来られる方はいい人たちですよね(笑)。ベートーヴェンを1日で9曲聴くのは相当好きじゃないとできないこと。そういう皆さんの前で弾けるのは本当に嬉しいです」
今回担当するのは中期の傑作集「ラズモフスキー」3曲(第7番〜第9番)。超の付く難曲ぞろいで、一気に弾くことは大きな挑戦となる。
築地杏里(チェロ)「特別な作品で、かなりの精神力、体力が必要。それを3曲弾いてその世界に浸かるということは経験がないし、すごい一年の終わり方になりそうです(笑)」
三澤「ラズモフスキーは完璧な作品。プレッシャーもありますけど、3曲弾くことで新しい境地を体験できそうで、とても楽しみです」
全員20代、「ひとりが引っ張るという音楽のつくり方はしない」という4人は関係も良好、笑いが絶えない。「世界に通用するクァルテットを目指す」ために、「ずっとこの4人で、たくさんの作品を弾いていきたい」と息の長い活動にしていくことを強調する。山本が“良いプログラミング”について語ったことばも印象深い。
山本「聴く側はちょっと大変、ぼくら弾く側はすごく大変、というものがいいと考えています。少しだけ普通じゃないプログラムで、音楽界を0.1ミリでも前に進められれば」
本稿執筆直後、バルトーク国際コンクール優勝との吉報が入った。ミリ単位なんて遥かに超える彼らの活躍、今後も楽しみでならない。
取材・文:林昌英
(ぶらあぼ2021年12月号より)
ベートーヴェン弦楽四重奏曲【9曲】演奏会
2021.12/31(金)14:00(終演21:30頃) 東京文化会館(小)
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp