世界的巨匠から新時代をひらく若手まで賑やかなラインナップ
1995年の紀尾井ホール開館時に、同館のレジデント・オーケストラとして設立されたのが紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO、当時は紀尾井シンフォニエッタ東京)。トップクラスの奏者からなる精鋭集団が、首席指揮者・尾高忠明(現・桂冠名誉指揮者)のもとでアイデンティティとなる音楽を築いていった。2017年にはウィーン・フィルのコンサートマスターとしても活躍するライナー・ホーネックが2代目に就任し、KCOはたちまちのうちにウィーンの香りをその表現パレットに取り込んだ。貫禄の歩みの中、弦からまろやかで優雅な香りが立ち上った。
そして来る2022年、同楽団は3代目首席にトレヴァー・ピノックを迎える。
ピノックといえば、1970年代の古楽ブーム初期からその最前線に立ってきたアーティストだ。チェンバロ奏者として活躍する傍ら、72年にはピリオド楽器による室内楽団イングリッシュ・コンサートを設立。この時代を牽引したアーノンクール、ホグウッド、ブリュッヘンらの大物が次々と鬼籍に入る中、ピノックは今や古楽演奏の数少ない生き字引である。
かつてはキワモノ的にもみられたピリオド演奏だが、ヴィブラートを控えフレーズを明瞭に表現するその演奏技法は、モダン・オケにも多くの実りをもたらし、今日では一般的なアプローチ法としても定着している。ピノックはKCOとも長年にわたり共演を重ねているが、現代ものにも鋭いセンスを発揮する尾高、古典派からロマン派初期という最重要レパートリーに独自の味付けを施したホーネックに続く首席就任は、レパートリーの拡大以外にも様々な刺激をもたらすことだろう。もともとKCOは800席の紀尾井ホールという空間と一体化したオーケストラだから、定期会員になって古楽アプローチをスパイスに王侯貴族気分を疑似体験するのも悪くない。
さて、ファースト・シーズンにピノックが登場するのは2回。4月(第130回)定期は第31番「パリ」、第35番「ハフナー」、第39番というモーツァルトの3つの交響曲を取り上げる。39番はすでに共演歴もあり、今後のレパートリーの中核になっていくであろうジャンルだけに、新しい船出を占うには絶好だ(22.4/22, 4/23)。
9月(第132回)定期はワーグナー(ジークフリート牧歌)、ショパン(ピアノ協奏曲第2番)、シューベルト(交響曲第5番)とロマン派初期〜中期に焦点を当てたプログラムを届ける(9/23, 9/24)。日本ではあまり知られていないが、この辺のアプローチについてもピノックは定評がある。ショパンの独奏を務めるのは2007年生まれのアレクサンドラ・ドヴガンで、すでに数々の国際コンクールに入賞している神童だ。昨年・今年の初来日はいずれもコロナで実現しておらず、彼女との共演が待ち遠しい。
シーズン・プロは他にも話題が満載だ。7月(第131回)定期に登場するアントネッロ・マナコルダはマーラー・チェンバー・オーケストラなどで活躍したヴァイオリニストだが、近年は指揮活動でも旋風を巻き起こしている。指揮者としては初来日で、シューマン(序曲、スケルツォとフィナーレ)、メンデルスゾーン(スコットランド)と得意作曲家をプログラミング。エストニアの作曲家トゥビンの協奏曲では、KCO、そして日本が誇るコントラバシスト、池松宏が独奏に登場する(7/22, 7/23)。
23年2月、シーズンを締めくくる定期(第133回)では、コロナ禍でも果敢に来日し人気急上昇中のマクシム・パスカルがベートーヴェンの交響曲第4番をひっさげKCOに初登場。パスカルと同世代のニコラ・アルトシュテットも指揮者として欧州で快進撃を続けているが、今回はチェリストとしてショスタコーヴィチ(第1番)を弾く。プログラム前半にはフォーレの組曲「マスクとベルガマスク」に「パヴァーヌ」を組み合わせ、パスカルの母国フランス音楽の精髄をコンパクトに聴かせる(23.2/10, 2/11)。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年11月号より)
第130回 定期演奏会[第3代首席指揮者就任記念コンサート]
2022.4/22(金)19:00、4/23(土)14:00
第131回 定期演奏会 7/22(金)19:00、7/23(土)14:00
第132回 定期演奏会 9/23(金・祝)18:00、9/24(土)14:00
第133回 定期演奏会 2023.2/10(金)19:00、2/11(土・祝)14:00
紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp
https://kioihall.jp
※発売日などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。