垣岡敦子(ソプラノ)

愛憎渦巻く悲劇をスリリングに描く《トスカ》に挑戦

(c)FUKAYA Yoshinobu/auraY2

 イタリアで研鑽を積み、透明感がありながらゴージャスな歌声で聴き手をたちまちオペラの世界に引き込むソプラノ、垣岡敦子。2012年からシリーズ化しているリサイタル「AMORE〜愛の歌」も、今年で7回目を迎える。前回(2019)好評を博したマスネ《マノン》のハイライトに続き、今回はプッチーニ《トスカ》のハイライトとのことで期待が高まる。

 「スタートから5回目までは、ほぼ私ひとりのリサイタル形式でやっていましたが、ただアリアだけを歌っても、それがオペラのどの部分で歌われる曲なのか、お客さまは分からない場合もありますよね。それならば、もうオペラをやっちゃおう! と思って試みたのが《マノン》でした。キャストは私とテノールだけ、演出家も衣裳さんも入れず、必要最低限の要素でできることをやろうと。そのかわり照明にはすごく凝ったりして、“Amazing!”と言っていただける舞台を作り上げることができました」

 そろそろ《トスカ》を歌う機が熟したと語る垣岡にとってのトスカ像とは?
 「トスカはオペラのなかでは20歳そこそこの若い女性ですが、声においても人生経験においても、熟していないと歌えない役だと思います。第1幕では勝気でかわいらしい少女が、第2幕では豹変して女になる、そして第3幕では母親のような大きな愛でカヴァラドッシを包み込む。トスカは私にとって、とても愛情深く、衝撃的な女性ですね。とくに第2幕は〈歌に生き、恋に生き〉を歌ったかと思えば、スカルピアを殺す場面ではドスのきいた壮絶な声を出さなければならない、テクニック的にも高度なものが要求される見せ場です。今回のハイライト版でも、第2幕はほとんどカットせずにお送りします」

 舞台は現代の設定で、カットした部分のストーリーはスクリーンに文字を映し出して進行していく。どこをカットするかに頭を悩ませ、照明や大道具のスタッフと打ち合わせをし、歌手としてだけでなく、プロデューサーとしての手腕もいかんなく発揮している。

 「ものすごく大変ですが、すべては“愛”です。あえて演出家を置かず、宮里直樹さんのカヴァラドッシ像、上江隼人さんのスカルピア像をそれぞれ自由に演じていただきながら、音楽監督&ピアノの村上尊志さんに音楽的な部分をまとめていただきました。大きなプロダクションではなかなかできない舞台をお届けできると思います」
取材・文:原 典子
(ぶらあぼ2021年11月号より)

垣岡敦子 AMORE 〜愛の歌 Vol.7
《TOSCA》全3幕ハイライト版(日本語字幕付)
2021.11/21(日)15:00 王子ホール
問:新演コンサート03-6384-2498 
http://www.shin-en.jp