【ゲネプロレポート】渋谷慶一郎 《Super Angels スーパーエンジェル》世界初演

 2021年8月21、22日、新国立劇場オペラパレスで、子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ《Super Angels スーパーエンジェル》が新制作・世界初演された。ヒューマノイド型アンドロイド「オルタ3」を軸に展開されるこのオペラは、アンドロイドと人類の未来への共生のメッセージが込められ、東京2020オリンピック・パラリンピックにあわせ、舞台芸術の可能性を広く世に問い、その魅力を国内外にアピールすべく「特別企画」として制作された。
(2021.8/20 新国立劇場オペラパレスでの最終舞台稽古を取材。撮影・文:寺司正彦)

 大野和士オペラ芸術監督の総合プロデュース・指揮のもと、小川絵梨子演劇芸術監督が演出監修、新国立劇場バレエ団(貝川鐵夫振付、大原永子監修)が参加するなど、新国立劇場の開館以来初めて、三部門が連携しての公演となった。《Super Angels》は、作家の島田雅彦に台本を、音楽家の渋谷慶一郎に作曲を委嘱。ダンスカンパニー「ローザス ROSAS」をはじめ、世界各地での舞台美術・照明などを手がけ好評を得ている舞台デザイナーの針生康が装置・衣裳・照明・映像を監督し、ロンドンを拠点に活動する世界的ヴィジュアルアーティストWEiRDCOREが映像を担当するなど、最先端の英知を結集させた。

 物語はこうだ。
 ある学園の卒業式。卒業生たちはこめかみにナノチップを注入され、統治、守護、知識、奉仕、そしてどこにも属さない「異端」というグループとに分けられ、全知全能のAI、マザーの管理下に置かれている。用済みとされた異端のひとり、アキラは開拓地送りとなる。アキラには大好きなエリカがいたが、彼女は「知識」グループの代表として学者の道を進むことになる。ふたりは別れを告げ、竹笛と土偶を交換し再会を誓う。開拓地でアキラはエリカを思う切ない胸の内を、雲や石、風に呼びかける。ゴーレム3は、アキラの心を感じとり、アキラの望みを叶えたいと思うようになる。ゴーレム3はアキラとの心の交流を通じ、あらゆる望みを叶える「カオス・マシーン」を創ろうとするが……

 オペラやクラシック音楽に造詣が深く、自身、これまでオペラの台本を複数書き、舞台の演出も手がけてきた島田はいつも、未来の子どもたちを憂える、心優しき予言者だ。台本には、子どもたちに向けての大切なメッセージがちりばめられている。

ゴーレム3「ヒトの心は二つある。第一の心は秩序に従い、第二の心は自由を求める。マザーが支配できるのは第一の心だけ。第二の心を束縛することはできない。マザーに服従し、富や権力を目指す人々は第二の心を閉ざしてしまう。でも、第二の心が広い人々は未知の世界、夢の時間を手に入れる。無意識では何もかもわかっているくせに何も知らない君たちのために第三の心、『カオス・マシーン』を作った」
マザー「他人の喜びを奪うなら/彼らの悲しみも背負いなさい」
マザー・エリカ「他人を傷つけたいのなら/彼らの痛みも引き受けなさい」
エリカ「誰も開けたことのないドアを/一緒に開けよう。もっと遠くに行くために」
ゴーレム3(アキラ)「掟を破らなければ、世界は変わらない」

(以上、単行本『スーパーエンジェル』(オペラ スーパーエンジェル リブレット)より一部転載)


「世界と僕は戦っている きっと世界が勝つだろう/僕に味方はいるのだろうか?」(合唱曲「また、あした」より)
「なぜ、地球は丸いか知っている? 別れた人同士が また何処か出会えるように 神様が地球を丸くしたからだよ」(カンタータ「天涯」より)
 これも、ともに島田の詩による作品だ。

 また、島田はこうも語る。
「タイプの違う知性がお互いに対話することで人間なら、お互いの考えを譲り合い積み重ねることで、ひとりで考えていたものと違うところに導かれる。新しいものを生み出せるメリット。それは機械と人間のあいだでも可能だと思う。AIが支配するのでなく、人間を解放する、あるいは知性の限界を超えてそれぞれの持っているポテンシャルを拡げてやる。そういう方向でAIを活用できたら暗いディストピアとは違うものになる。それもすべて対話を通じてたどり着けるのではないか」  

 モーツァルトへのオマージュ? とおぼしき要素までもが盛り込まれた島田の秀逸な台本に誘われ、渋谷慶一郎が壮大な音楽をつけた本作は、これまでにないまったく新しいオペラ。全1幕6場のシーンごとに異なるタイプの音楽が奏でられ、歌手、アンドロイド、大人合唱、児童合唱、障害のある子どもたち、バレエと、多種多様な出演者とオーケストラを纏め上げた大野の手腕は、そのプロデュース力とともに高く評価されるだろう。そして、児童合唱と、ホワイトハンドコーラスの「手歌(視覚障害のある子どもは歌で表現、聴覚障害のある子どもは手話で歌う)」が自由とは何か、人間にとって何が大切かを高らかに歌い上げる。小川絵梨子の演出監修のもと、針生康とWEiRDCOREそして新国立劇場バレエ団がその世界観を描きだした。子どもたちとアンドロイドが創るこのまったく新しいオペラは、子どもも大人も楽しめ、そして、何かを感じ、考えさせる作品となった。

 なお、新国立劇場では、年内に本公演の記録映像の配信を予定している。公演を観た方にもこれから配信を観るという方にも、ぜひ単行本『スーパーエンジェル』(小説と台本の合本。講談社刊)の一読をお勧めしたい。

【一場 学園】

一場 ゴーレム3とアキラの回想シーン
左:ゴーレム3(オルタ)、右:アキラ(藤木大地)
「五人の天使」の合唱が、世田谷ジュニア合唱団、ホワイトハンドコーラスNIPPONによって歌われる
中央:アキラ(藤木大地)
左上:エリカ(三宅理恵)

【二場 開拓地】

アキラはゴーレム3に人間の心を、ゴーレム3はアキラの頭脳に自身のメモリーを、互いに「一番大事なもの」を交換する

【三場 量子カデンツァ】

ゴーレム3の意識の流れ、マザーの変容がバレエと合唱、映像によって表現される

【四場 開拓地】

右:ジョージ(成田博之)
左:ルイジ(小泉詠子)
左から:異端1(小泉詠子)、ジョージ(成田博之)、異端2(込山由貴子)、異端3 (北村典子)、異端4(上野裕之)、異端5(ヴァイオリンソロ・長野礼奈)、エリカ(三宅理恵)


【五場 森】

【六場 開拓地】

【Information】
渋谷慶一郎/子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ《Super Angels スーパーエンジェル》

2021.8/21(土)、22(日)各日14:00 新国立劇場オペラパレス
上演時間(約1時間45分)

●スタッフ
総合プロデュース・指揮:大野和士
台本:島田雅彦
作曲:渋谷慶一郎

演出監修:小川絵梨子
総合舞台美術(装置・衣裳・照明・映像監督):針生 康
映像:WEiRDCORE

振付:貝川鐵夫
舞踊監修:大原永子

演出補:澤田康子
オルタ3プログラミング:今井慎太郎

●キャスト
ゴーレム3:オルタ3 (Supported by mixi, Inc.)
アキラ:藤木大地
エリカ:三宅理恵
ジョージ:成田博之
ルイジ/異端1:小泉詠子
異端2:込山由貴子
異端3:北村典子
異端4:上野裕之
異端5:長野礼奈(ヴァイオリンソロ)

世田谷ジュニア合唱団
ホワイトハンドコーラスNIPPON
新国立劇場合唱団

渡邊峻郁、木村優里、渡辺与布、中島瑞生、渡邊拓朗(新国立劇場バレエ団)

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

[新国立劇場三部門 連携企画]
芸術監督
大野和士(オペラ)
吉田都(舞踊)
小川絵梨子(演劇)

https://www.nntt.jac.go.jp/opera/super_angels/