新国立劇場は3月2日、2021/22シーズンラインアップ説明会を行い、大野和士・オペラ芸術監督が演目を発表した。例年、オペラ・舞踊・演劇の3部門が一堂に会してラインアップ発表を行うが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため各部門ごとに説明会が開催された(演劇部門のみ後日発表)。
(2021.3/2 新国立劇場 オペラパレス Photo:J.Otsuka/ぶらあぼ編集部)
*吉田都・舞踊芸術監督より同日発表されたバレエ&ダンス ラインアップ会見の模様はこちら
大野は21/22シーズンの演目紹介に入る前に、今シーズンについて言及した。
現在、外国人の新規入国が全面的に禁止されているため、3月の《ワルキューレ》、4月のダブルビル《夜鳴きうぐいす/イオランタ》の2プロダクションは、 招聘歌手、演出家などの来日が叶わない。ダブルビルは新演出のプロダクションだが、演出家のヤニス・コッコスはリモート演出での参加となる。
「(昨年10月に上演した)ブリテン《夏の夜の夢》でリモート演出を行いましたが、すでにあるプロダクションだったためビデオなども見て、予測しながらの稽古が可能でした。4月のダブルビルは、“新演出”のリモート。恐らくこれまでとは違う工夫を伴い、また理解力を深めるための志気が求められるのではないかと思います。
一方《ワルキューレ》は、代表的なワーグナー歌手の来日は叶いませんが、いま考えられる最高の日本人キャストで上演します。歌手とともに力を注ぎ、ワルキューレを成功させたい」
21/22シーズンのオペラ部門は、新制作となるロッシーニ《チェネレントラ》、ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》、グルック《オルフェオとエウリディーチェ》、ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》の4演目、レパートリー6演目の計10演目を上演。うち大野は2演目で指揮台に立つ。
大野は芸術監督4シーズン目となるが「これらの演目が当初考えられた形で行われることを半ば祈って」と前置きをしつつも、新制作4作品について大作曲家が苦難を乗り越えて歴史に名を残したこと、そこに私たちに問いかける共通のメッセージがあるとし、「この時代に勇気を与えてくれる作品が並んだ」と想いを語った。
【新制作】
●ロッシーニ《チェネレントラ》
(21年10月、指揮:マウリツィオ・ベニーニ、演出:粟國 淳)
●オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World
ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》
(21年11〜12月、指揮:大野和士、演出:イェンス=ダニエル・ヘルツォーク)
●グルック《オルフェオとエウリディーチェ》
(22年5月、指揮:鈴木優人、演出:勅使川原三郎)
●ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》
(22年7月、指揮:大野和士、演出:ケイティ・ミッチェル)
【レパートリー】
●《蝶々夫人》(21年12月、指揮:下野竜也、演出:栗山民也)
●《さまよえるオランダ人》(22年1〜2月、指揮:ジェームズ・コンロン、演出:マティアス・フォン・シュテークマン)
●《愛の妙薬》(22年2月、指揮:フランチェスコ・ランツィロッタ、演出:チェーザレ・リエヴィ)
●《椿姫》(22年3月、指揮:アンドリー・ユルケヴィチ、演出:ヴァンサン・ブサール)
●《ばらの騎士》(22年4月、指揮:サッシャ・ゲッツェル、演出:ジョナサン・ミラー)
●《魔笛》(22年4月、指揮:オレグ・カエターニ、演出:ウィリアム・ケントリッジ)
シーズン開幕はベルカント・オペラの傑作、大野が「人をホロリとさせる作品」と語るロッシーニの《チェネレントラ》を上演。昨年の《セビリアの理髪師》の名演が記憶に新しい脇園彩(アンジェリーナ)、ルネ・バルベラ(ドン・ラミーロ)が登場。イタリア・オペラ界の巨匠マウリツィオ・ベニーニが指揮し、粟國淳が演出する。
ワーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(新制作)は当初20年6月に上演予定だったが延期となっていた公演。キャスト、オーケストラは昨年予定されていたメンバーから変更はなく上演されることが「奇跡的」と大野は喜ぶ。大野自身がタクトをとり、演出は映画監督のヴェルナー・ヘルツォークを父に持つ、将来を嘱望されているイェンス=ダニエル・ヘルツォーク。
「オペラ改革者」として音楽と演劇の融合を試み、後世に影響を与えたグルックの代表作《オルフェオとエウリディーチェ》。大野はダブル・ビルと並び1シーズンおきにバロック・オペラの新制作上演を行うことをラインアップの柱に掲げていたが、昨年予定していたヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》が延期となったため、本作がその第1弾となる。ウィーン原典版と舞踊の入るパリ版を使用し、演出には、藤倉大《ソラリス》、あいちトリエンナーレ プロデュースオペラ《魔笛》などオペラ演出も数多く手掛ける振付家・ダンサーの勅使川原三郎が起用された。指揮は「バロック・オペラを任せたい(大野)」と多才な鈴木優人が登場。才人同士がどうぶつかりあうかに注目したい。
大野が「21/22シーズン最後の上演に決めていた」と語るドビュッシーの大傑作《ペレアスとメリザンド》は、06年にエクサンプロヴァンス音楽祭で初演され絶賛を博したケイティ・ミッチェルによる演出で、大野自らが指揮する。
また、昨年8月に上演予定だった人工生命を宿したアンドロイド「オルタ3」が出演する《Super Angels スーパーエンジェル》(作曲:渋谷慶一郎、台本:島田雅彦、指揮:大野和士)が21年8月に上演されることもあわせて発表された。
レパートリー作品では、日本を代表する国際的な歌手・中村恵理の蝶々夫人と、リリックな美声を持つルチアーノ・ガンチのピンカートンに注目。《愛の妙薬》では、ベルカントテノール、フアン・フランシスコ・ガテルが再登場。アディーナ役には、藤倉大《アルマゲドンの夢》に出演したジェシカ・アゾーディが出演。大野が彼女のコロラトゥーラを聴き決めたという。
《椿姫》では、ベルリン、ウィーンなどでヴィオレッタを歌っているアニタ・ハルティヒが同劇場初登場。「この状況下で日本人の層が厚くなっている(大野)」と《魔笛》は鈴木准(タミーノ)、砂川涼子(パミーナ)、三宅理恵(パパゲーノ)らオール日本人キャストで上演する。
指揮では、「《ばらの騎士》を振るためにウィーンに生まれ育ち教育をうけてきた(大野)」元ウィーン・フィルヴァイオリン奏者、サッシャ・ゲッツェルが振る。《さまよえるオランダ人》では、巨匠ジェームズ・コンロンが満を持して登場。大野は「今回だけではなく将来的にも関係が続けば」と期待を寄せた。
就任当初から大野は「ロシア・オペラ、バロック・オペラ、ベルカント・オペラ、フランスもの、20世紀、同時代もの」のレパートリー拡充を柱に掲げてきたが、今後については、ショスタコーヴィチの《ムツェンスク郡のマクベス夫人》《鼻》、プロコフィエフ《3つのオレンジへの恋》、ヤナーチェク、ブリテンのオペラなども取り上げたいとし、また「日本人作曲家委嘱作品シリーズ」については次回に向けすでに決めていることも言及した。
新国立劇場
https://www.nntt.jac.go.jp
オペラ 2021/2022シーズンラインアップ
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/news/detail/6_019557.html