上原彩子(ピアノ)

二人の天才コンポーザー・ピアニストの佳品を味わう

C)武藤 章
 上原彩子が、デビュー20周年の2022年に向けて行うリサイタルシリーズ。原点のロシア音楽ともう一人を組み合わせるというコンセプトのもと、Vol.2には、ラフマニノフとショパンを選んだ。ピアニストにとって重要な二人の作曲家だ。

 まず決めた曲目は、ラフマニノフがショパンの「24の前奏曲」第20番からテーマをとった「ショパンの主題による変奏曲」だったという。
「ラフマニノフの大きな曲はほとんど弾いていますが、これだけ取り組んでいなかったのです。もともと、ラフマニノフに合わせるならショパンしかいないと思っていましたが、やはり原曲も聴いていただくほうがおもしろいだろうと、『24の前奏曲』を前半に置きました」

 ラフマニノフの変奏曲からは、ショパンに対する「相当なリスペクトを感じる」という。
「ハ短調の主題を、これでもかというほど深く掘り下げています。あれだけ悲劇的に捉えたうえで、変奏を通じて歓喜に押し上げるところに、真摯な姿勢も感じます。ただ、ショパンの主題はあくまで素材として使っていて、音楽はラフマニノフそのもの。彼が弾くショパンの録音も、やはり音色はどこまでもラフマニノフで、おもしろいですよね。自作でも、絶対にやりすぎることなくシンプルに弾きます。とても趣味のいい人だったのでしょう。ショパン自身の録音は残っていませんが、その感性は共通していると思います」

 上原はもともとショパンに苦手意識があった。それには、子どもの頃、恩師である故ヴェラ・ゴルノスタエヴァから言われた言葉が影響しているそうだ。
「先生はショパンが得意でたくさん弾いてくださり、そこから聴きとったことはすべて頭の中に残っています。でも私が弾くと、それはちょっと違うわねといつもおっしゃって。当時はショパンならではの洗練が表現できていなかったのでしょう…田舎育ちですから(笑)」

 おかげで今もラフマニノフに比べ“遠いところにいる”ショパンだが、コロナ禍の自粛期間には、改めて新しい曲に取り組んだ。「ショパンを弾き込むことで、鍵盤に対する接し方やテクニックを盗みたい」と話す。

 最後に、不安なニュースが多い今、公演を通じて届けたいことを聞いた。
「ショパンの前奏曲は、春の明るさのなかで始まり、影がどんどん濃くなって、悲劇の鐘で終わります。しかしどん底に落ちた音楽が、ラフマニノフの手で歓喜に昇華される。そんな音楽の流れを共に味わっていただけたら嬉しいです」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2021年1月号より)

2022年デビュー20周年に向けて Vol.2
上原彩子 ピアノ・リサイタル
2021.1/13(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp