新倉 瞳(チェロ)

多彩な“ダンス”のエッセンス溢れる魅力的なアルバムが誕生

C)Fukaya Yoshinobu

 スイスを拠点に幅広く活躍する人気チェリスト新倉瞳が、「舞曲」をテーマにした新譜『ダンツァ』をリリースする。じつに楽しく、そして聴きごたえあるアルバムだ。チャイコフスキーの「眠れる森の美女」からサン=サーンスの「死の舞踏」、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」やショスタコーヴィチの「ワルツ」まで、さまざまな「ダンス」の音楽のキャラクターがいきいきと伝わってくる。

 「自分でもしっくりくるラインナップ。華麗なバレエ曲から民俗的な踊りまで、すべて揃ってようやく自分だと思っているのですが、そういう選曲ができました。(オリジナルがチェロ曲以外の作品も多いが)曲に対するイメージが大事。すべてチェロで弾いて納得できる作品になりました」と手ごたえを語る。

 中心に据えたのが、プーランクの「フランス組曲」(作曲者自身によるチェロ用編曲)。
「あまり弾かれませんが、大好きな素晴らしい曲。古典の舞曲に、プーランクの現代的な和声を乗せている作品で、私自身が心がけている“古いものを伝えるための新しい挑戦”というテーマにもマッチしていると思いました」

 東欧系のユダヤ音楽クレズマーのジャンルでの活動も有名な彼女だが、最近では、彼らの舞踊であるイディッシュ・ダンスを自分でも踊るのだそう。
「実際に身体を動かしてみると、耳から入ってくるのとは違う情報が入ってきます。たとえば、3拍子なのに、ちょっと足をすって5拍子のような感覚でとると、途端に踊りやすくなるような音楽があるんです。グルーヴ感がとても大事」

 それを感じて音楽の受け取り方も変わった。たとえばアルバム冒頭のフォーレの「シシリエンヌ」。代表的なチェロの名曲だが、いつもテンポがしっくりこない気がして、ちょっと避けていたのだそう。それが、踊りを意識することで、「なんだ。決まった正解などないのだ。感じたままに弾けばいい」と腑に落ちた。一方で、民俗的な音楽にはないクラシック音楽特有の表現ともいえる強弱の幅、とくにピアニッシモの美しさをあらためて意識することにもつながったという。
「聴いていただくたびに、様々な出会いによって私の音が形成されていることを感じてもらえる内容になったと思います」

 実際、聴くたびに新しい発見があって、ヘビロテでついつい何度も繰り返し聴いてしまった。素敵な、うれしい一枚。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2020年12月号より)

SACD『ダンツァ』
アールアンフィニ/ミューズエンターテインメント
MECO-1060 ¥3000+税
2020.11/25(水)発売