「第九」の“芯”や“骨格”を味わってください
ウィーン・フィルの首席奏者をはじめ、国内外のトッププレイヤーと共演を続けている実力派ピアニスト、後藤泉。11月にマイスター・ミュージックから6年ぶりに新譜を発表することになった。今回がソロ2作目で、リストのベートーヴェン編曲の中でもとりわけ難曲として知られる交響曲第9番「合唱」を収録。前作の第3番「英雄」同様、見事なバランス感覚と技巧による快演を披露している。
「リストが編曲した一連のベートーヴェン交響曲は、いかにも彼らしい超絶技巧を随所に散りばめつつも、原曲のスケールや魅力を損なわないのが凄いですね。この『第九』もピアノで演奏すると、主旋律と伴奏や二重フーガなどの構成が、原曲よりもわかりやすく立体的に聴こえると思います。オーケストラの大音量だと圧倒されて聴こえてこない“芯”や“骨格”を味わってください」
テンポ設定は全体に緩やかで、丁寧な音楽作りが印象的な当盤。中でも第3楽章から第4楽章にかけての後半は、後藤のこだわりが強く反映されている。
「第3楽章では、原曲の滑らかで息の長い旋律になるべく近い響きを心がけました。一方、4人の独唱と合唱が加わる第4楽章は、ピアノ1台ですべてを再現することは不可能。どのパートをうまく進行させると音楽として一番いいバランスになるかを考えながら演奏しました」
こうなると、彼女の「第九」を生でも聴きたいところ。12月の鶴見区民文化センターサルビアホールの公演は残念ながら既に完売しているが、美六山荘(茨城県つくば市)と、来年1月の日本外国特派員協会(有楽町)で実演に触れることができる。
「美六山荘はこれまでに30回近く演奏している大好きな空間。筑波山の麓にある美しい古民家なので、観光も兼ねてぜひ聴きにいらしてください。また、日本外国特派員協会の公演では終演後に食事も付くことになっています。季節や作品にちなんだお料理を厨房の方々とご相談している最中なので、そちらもぜひお楽しみに」
ベートーヴェンの交響曲ツィクルスを既に4回も行っている後藤。今後の抱負を次のように語ってくれた。
「時間はかかるかもしれませんが、ベートーヴェンの交響曲は必ず全曲録音するつもりです。次回作は、第6番『田園』と第4番のカップリングを予定しています。『田園』は私が初めて弾いたベートーヴェンの交響曲ということもあり、ずっと録音したいと思っていました。彼の最も独創的で瑞々しい傑作の魅力をお届けできるように頑張ります!」
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ2013年12月号から)
★12月1日(日)・つくば/美六山荘 090-7633-4035
2014年1月18日(土)・有楽町/日本外国特派員協会 03-3211-3161
【CD】『ベートーヴェン:交響曲第9番(リスト編ピアノ版)』
マイスター・ミュージック
MM-2169 ¥2957