重いメッセージを孕む20世紀の傑作と古典派作品の愉悦
ユーリ・テミルカーノフの指揮で、ショスタコーヴィチの交響曲第13番「バビ・ヤール」を聴ける。しかも、いま国内随一の迫力のサウンドを誇る、読売日本交響楽団の演奏で。今年度屈指の聴きものと言えるだろう。
タイトルは、第二次大戦中ナチスによってユダヤ人が虐殺された、旧ソヴィエト(現ウクライナ)の谷の名前。その悲劇と、戦後もソヴィエトに残っていた反ユダヤ主義の空気を告発する、気鋭の詩人エフトゥシェンコの詩にショスタコーヴィチは感銘を受け、1962年、他の詩も組み合わせて、バス独唱と男声合唱付き全5楽章の大作を作り上げた。表題の詩による第1楽章をはじめ、すべての楽章の詩に重いメッセージがあり、今こそ噛みしめたい箴言に満ちている。音楽と詩の最高の相乗効果が実現した20世紀の傑作である。
ソヴィエト出身のテミルカーノフは、2006年サンクトペテルブルク・フィルとの来日公演で本作を取り上げ、畏怖を覚えるほどの名演を実現している。本作ではスコアに忠実かつ強靭な音響でその精髄を聴かせてくれるはず。男声もすばらしい顔ぶれで、新国立劇場合唱団の深い響きに加え、テミルカーノフはもとよりクルレンツィスの信頼も厚いバス歌手ピョートル・ミグノフの声を聴けるのは嬉しい。
公演前半はハイドンの交響曲第94番「驚愕」。古典の愉悦を味わえる名品で、テミルカーノフがどんなハイドンを聴かせるのかも楽しみ。ハイドンからショスタコーヴィチに至る「交響曲の歴史」の変遷まで考えさせられる、意義深い公演となる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年10月号より)
第592回 定期演奏会
2019.10/9(水)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp/