世紀末ウィーンの濃厚な香りがホールを満たす
ジョナサン・ノットと東京交響楽団の快進撃はとどまるところを知らない。刺激的なプログラム、説得力のある作品解釈、そして予定調和に終わらないエキサイティングなライヴ。こういった魅力が、6シーズン目を迎えてもなお色褪せないというのは驚異的なこと。毎回の共演にこれだけワクワクできるコンビはそうそうない。
11月の定期演奏会でノットが用意したのは、ベルクの「管弦楽のための3つの小品」と、マーラーの交響曲第7番「夜の歌」を組み合わせたプログラム。前者は1915年、後者は1905年の作曲。いまだ色濃く残る爛熟した世紀末ウィーンの香りを伝える。ベルク作品では後期ロマン派の濃密な官能性とともに、マーラーからの影響も感じとれることだろう。行進曲の採用やハンマーの使用は、マーラーの交響曲第6番「悲劇的」を連想させるが、今回演奏されるのは第7番「夜の歌」だ。
ノットと東響はこれまでにもたびたびマーラーの作品をとりあげてきた。今回の「夜の歌」はとりわけ大きなチャレンジとなるはず。なにしろこの曲はどんな指揮者、どんなオーケストラにとっても一筋縄ではいかない作品なのだから。オーケストラに高度な機能性を求める一方で、音楽が伝えるドラマは多義的で、クライマックスに至ってもその真意をはかりかねるところがある。歓喜なのかパロディなのか、狂躁的な音の洪水のなかで考えさせられてしまう。そんな多面的な作品をノットがどう料理するのか。発見の多い名演になりそうだ。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2019年10月号より)
第675回 定期演奏会
2019.11/16(土)18:00 サントリーホール
第72回 川崎定期演奏会
2019.11/17(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
http://tokyosymphony.jp/