ショパン作品で魅せる芳醇な味わい
1998年のチャイコフスキー国際コンクールは、ひとりの「コンクールのヒーロー」を世に送り出した。ドイツ人の父と日本人の母のもと、77年ロンドンに生まれ、第3位に入賞したフレディ・ケンプである。スケールの大きな華やかさを備えたピアニズムと甘いマスクに人気が集中し、一躍注目されることになる。だが彼は「コンクールのヒーロー」ではなく自分の名前で勝負したいと、ひたすら練習に明け暮れ、年に100回を超すコンサートをこなし、実力派へと歩みを続けていった。
定期的に来日しているケンプは常に新たな作品を披露して成長ぶりを示しているが、今回は待望の「オール・ショパン・プログラム」。バラードとスケルツォのそれぞれ第2番・第4番などを弾く。ケンプのピアノは楽器を豊かに鳴らすものだが、内声部の美しさも際立たせながら息の長いフレーズをゆったりとうたわせる。さらに弱音を自然に響かせ、静謐な音色で余韻を楽しませる。ショパンでは真価を発揮、馨しい美音を放つ音楽が生まれるに違いない。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年9月号より)
2019.9/20(金)19:00 紀尾井ホール
問:オーパス・ワン042-313-3213
http://opus-one.jp/