フランスとイタリアの近現代作品にフォーカス
伊藤祐子は武蔵野音楽大学ピアノ科卒業後、ドイツ・フライブルク国立音楽大学大学院、ミラノ・ヴェルディ音楽院、さらにベルガモ・ドニゼッティ音楽院にて研鑽を積んだピアニスト。多くの国際コンクールに優勝・入賞を果たし、現在はイタリアを拠点に演奏活動を展開するほか、同地の音楽院で講師として後進の育成にも励む彼女が、日本で初となるアルバム『Notations』 (フォンテック)をリリースし、記念リサイタルを行う。
「ドビュッシー『映像』、ラヴェル『水の戯れ』、ブーレーズ『ノタシオン』…と、フランスの近現代の音楽の流れを凝縮したプログラムになりました。また、今回は私がベルガモで学んでいた時から親しい作曲家のステファノ・ジェルヴァソーニさんの曲を演奏させてもらえるのもとても嬉しいです」
ジェルヴァソーニの作品から今回は「プレ Pres」を演奏する。これはフランス語で“野原”を意味し、全18曲、3集から成る曲集となっている。
「野原で遊んでいる子どもをイメージして書かれた曲なのですが、テクニック的には完全に大人向け。純粋無垢な子どもだから見える、何か不吉なものが押し寄せてくるものを描いた作品です。第1集・第2集は、トイピアノ用に書かれたものもあり、非常にシンプルなのですが、どんどん不吉さが増していくように第3集などは音数も増えて、非常に複雑な曲になっています」
今回のプログラムからも窺えるように、時代の新しい作品を中心に取り上げて演奏活動を行っている伊藤。イタリアでは現代音楽の演奏は盛んなのだろうか。
「イタリアの北の方、特にミラノでは盛んですね。“ディヴェルティメント・アンサンブル”が中心になって浸透してきました。私の恩師であるマリア・グラツィア・ベッロッキオ先生が同アンサンブルのピアニストで、彼女から学んだことが現在の私の活動にとても大きな糧となっています」
今回のCD及びリサイタルはフランス・プログラム中心だが(CDはオール・フランス・プロ)、伊藤のキャリアからすれば少し意外にも思える。
「ドビュッシーは留学する前からずっと好きで、とても自分の中でしっくりくる作曲家です。イタリアでベッロッキオ先生に教えを受けるようになってから、クリアな音色を出し、自分の表現をもっと明確に伝えること、楽譜を正確に読むことを学び、その中でドビュッシーの作品がとても重要な課題となりましたし、フランスものは私にとってとても大切なレパートリーなのです」
これまでの伊藤のキャリアと彼女の魅力が存分に味わえるリサイタルとCD。クリアな音色で紡がれる、歌心溢れる演奏をぜひ堪能してほしい。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2018年10月号より)
伊藤祐子 ピアノリサイタル2018
2018.10/23(火)19:00 豊洲シビックセンターホール
問:ムジカキアラ03-6431-8186
http://www.musicachiara.com/
CD『Notations』
フォンテック
FOCD20114
¥2800+税
10/24(水) 発売