晩学の天才ギタリスト現る
世界的ギタリスト福田進一のプロデュースで、才能ある若手に録音の機会を提供する新企画《ギター・ディスカバリー・シリーズ》。その第1弾アーティストに選ばれたのが、25歳の新星・小暮浩史だ。ギターを始めたのは16歳と遅いが、そのわずか5年後に、東京国際ギター・コンクールで第3位に入賞。この取材に立ち会った福田進一は、自らの孫弟子にあたる小暮について「学習能力や成熟度など、センスが抜群。世間では早熟を天才と呼びますが、彼を見ていると、こういう晩学の天才もありだなと思って(笑)」と目を細める。 ヤマハ音楽教室で5歳からピアノを始めた小暮だが、中学時代は野球部で運動漬けの日々。その後、高校でギターを始め、数年後にプロを志すまでには、どのような経緯があったのだろうか。 「押尾コータローさんの映像を観て、即座にギターの虜になってしまいました。両親がバンドをやっていましたので、自宅にあったアコースティック・ギターを見よう見まねで弾き始めたのがきっかけです。でも、プロになる気は全然ありませんでしたので、大学は早稲田に進みました。ところが、早稲田にはギター・サークルが複数あり、ギター好きには充実した環境が整っていたのです。鈴木大介さんや、僕の恩師・高田元太郎先生など、錚々たるOBがいらっしゃった影響もあり、徐々にアコースティックからクラシック・ギターの世界にシフトしていきました。プロを意識したのは大学4年の時。高田先生が病気で倒れられて、退院後に演奏を聴いていただいた時に、物凄く嬉しそうな顔をしてくださったのです。改めて、先生から教わった沢山のことを思い出し、この世界で出来る限り頑張ってみようと心に決めました」 そして本題のデビュー盤。表題作のリベラ「舞踏の旋回」をはじめ、ダウランド、シューベルト、グラナドス、ピアソラ、武満徹など、実に多彩な13曲が収録されている。 「どれも自分がずっと大切に弾いてきた曲ばかり。昨年と一昨年のコンクール用に練習していたこともあり、これが今の自分にできる“ベスト盤”だと考えています。ダウランドから始まって、武満さんに至る約500年分のギターの歴史。それぞれの時代や様式が明確に聴こえるような演奏を心がけました」 いずれの演奏も、音色が鮮烈で、技巧も抜群の安定感。「キャリア20年のベテランさえも到達できない演奏能力と音楽がすでにある」と、福田も賛辞を惜しまない。中でも注目なのが、ブローウェル「円柱の都市」だ。 「折しも福田先生の生演奏を初めて聴いたのが、ブローウェルの『ハープと影』の初演でした。ブローウェルは先生と親交が深い作曲家なので、楽譜に記された“生の声”を学べて幸せでした。また、これが邦人初の録音ということなので、大変光栄に感じています」 今回の新シリーズについて、「自分が海外で活躍できるようになるまで苦労しましたので、世界に向けてネット配信も行っているマイスター・ミュージックでCDを制作することにより、若手の世界進出を少しでも支援できれば」と企画趣旨を説明する福田。そんな恩師の想いを受けながら、小暮が今後の展望を次のように語ってくれた。 「このインタビューの3日後には、イタリアのシエナへ短期留学(約1ヵ月)します。師事するのは、福田先生の恩師で、セゴビアの直系にあたるオスカー・ギリア先生。正統派のレパートリーを中心に、彼の最大の持ち味と言われる色彩感を学びたいです。今は、技巧的にも、レパートリー的にも、仕込みの時期。そもそもキャリアの出発が遅いので、これからも焦らずに、じっくりと地歩を固めていきたいと思います」 取材・文:渡辺謙太郎 (ぶらあぼ2013年8月号から) 【CD】 『舞踏の旋回〜福田進一ギター・ディスカバリー・シリーズ〜』 小暮浩史(ギター) ◎ピアソラ:天使の死 ◎A.バリオス・マンゴレ:郷愁のショーロ ◎C.R.リベラ:舞踏の旋回 ◎ダウランド:ファンタジア グラナドス:◎スペイン舞曲第1番「メヌエット」 ◎同第12番「アラベスカ」 ◎武満徹:エキノクス ◎ブローウェル:円柱の都市 ◎J.K.メルツ:マルヴィーナへ シューベルト:◎涙の賛美 ◎セレナード マイスター・ミュージック MM-2157 ¥2957 7月25日(木)発売 NEW 【LIVE情報】 ★9月18日(水) 西麻布/BAR 無垢 OPEN 19:00 START 19:30 [予定プログラム] J.ダウランド:ファンタジア J.K.メルツ :マルヴィーナヘ C.R.リヴェラ:舞踏の旋回 A.バリオス:郷愁のショーロ J.ロドリーゴ:ファンダンゴ A.ヨーク:スノーフライト、インソロウズウェイク、サンバースト A.ピアソラ:天使の死 ミュージック&ドリンクチャージ¥6,000 (ドリンクはフリーフロー) ※要予約 問: BAR 無垢 03-3797-6969 東京都港区西麻布2-10-2 五十嵐ビル1F http://www.barmuku.com/barmuku.htm