上質なイタリアと、中村恵理の世界水準のヴィオレッタ
数々の意欲的な上演で知られ、以前から遠方にもファンが多かった藤沢市民オペラだが、2015年に指揮者の園田隆一郎を芸術監督に迎え、さらに一皮も二皮もむけた。主にイタリアで活躍していた園田が作る音楽は、様式感が確かで精緻に構築される。そのうえイタリア人が指揮するように、ときにはそれ以上にイタリアを感じさせるのだ。藤沢市民オペラの上演も、相模湾ならぬアドリア海の風のような“上質なイタリア”にまとわれるようになった。18年以降も園田の続投が決まり、これで少なくともあと3年、湘南で生粋のイタリアを味わえる。
新たなシーズンの最初を飾るのはヴェルディ《椿姫》(演出:岩田達宗)。藤沢市民オペラの1シーズンは1年目に招聘公演、2年目に演奏会形式でのオペラ公演、3年目に市民オペラの本公演というスケジュールで、この《椿姫》は藤原歌劇団の招聘公演になる。その目玉は、一昨年までバイエルン国立歌劇場のソリストとして活躍し、声楽的な技巧にも演劇的な表現力にも長けている中村恵理のヴィオレッタである。共演陣もアルフレードに笛田博昭、ジェルモンに須藤慎吾と実力者が揃った。中村を起用した理由を園田は次のように語る。
「《椿姫》はヴェルディ中期の傑作で、音楽的に充実しているのはもちろん、演劇的でもある。中村さんの声にはその両方があります。軽やかさと強さの両方を持ち合わせ、役への入り方も深く、華やかさも苦悩も十分に表現できる。だから、ぜひ彼女に歌ってほしかったのです」
次第に声を充実させている中村。軽やかさも必須のヴィオレッタは、いまが聴きごろであり、いましか聴けないかもしれない。その意味でも聴き逃せない。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2018年9月号より)
2018.10/14(日)14:00 藤沢市民会館大ホール
問:藤沢市みらい創造財団 芸術文化事業課0466-28-1135
http://f-mirai.jp/