ジャンルを超えた“しあわせ”を呼ぶこころの歌
「温かく且つ愁いに満ちたメゾ・ソプラノの歌声」、「繊細且つ圧倒的な内面の表現力」、そして「大らかで誰からも愛される人間性」…歌い手としてのこの貴重な資質に恵まれた郡愛子による、感動と幸せに満ちたステージを実現しよう…という目的で、「郡愛子コンサートプロジェクト」は、1995年の東京芸術劇場大ホールにおける「郡愛子20周年記念リサイタル〜ときめきに今!」の成功を契機に発足。それ以降、2015年に開催した「郡愛子40周年記念リサイタル〜愛といのちを歌う」までの20年間は、「今を生きる人たちが心の深奥でいちばん求めているものは何か…」、「人間にとっていちばん大切なものは何か…」を常に念頭に置き、ジャンルを超えた楽曲で構成する自主リサイタルを、郡はほぼ毎年続けてきた。
昨年4月に日本オペラ協会の総監督に就任し、現在は日本オペラの振興と発展に努める郡愛子だが「自身が携わるオペラでは、一人でも多くの歌い手が出演の機会に恵まれるように、自分は出演しないつもり」でいる。だがもう一方では、郡なりの歌い手としての使命感はますます膨らみ、これまで続けてきた自主リサイタルに傾ける情熱も半端ではない。
「今が混沌とした時代だからこそ、私たち人間がともすれば忘れがちな大切なことを、歌を通して伝えていくという、歌い手としての責任も痛切に感じる」
「しあわせの道標(みちしるべ)」と題した本リサイタルの演奏編成は、郡のレギュラー・ピアニストでもある松本康子をリーダーとして、郡の40周年記念リサイタルでも共演した藤原歌劇団クアットロアリア(男声アンサンブル=4名)、そして歌い手でもある異色の尺八奏者・阿部大輔の6名から成る。
演奏楽曲は、なかにし礼作・台本のオペラ《静と義経》の初演で郡がかつて静の母・磯の禅師役で出演し歌った〈都へかえりましょう〉、美内すずえ原作の漫画に基づく『アマテラス』のアルバム収録で歌った〈新世界〜ASCENSION〉、大林宣彦監督の映画『はるか、ノスタルジィ』で流れた郡による歌〈やるせないアリア〉、そして日本オペラ協会総監督として、新シリーズの第1回目に上演した《ミスター・シンデレラ》のフィナーレで歌われた〈ある朝、人生を振り返ったとき〉など、エピソードが一杯詰め込まれた作品群。歌の内容がどこかこのリサイタルのテーマと重なるものばかりだ。
「無償の愛、出会いと別れ、救済、身近なしあわせ等の様々なテーマやメッセージが込められている、ジャンルを超えた歌たちを通して、そっと“しあわせ”に触れたい」
日本オペラ協会は今年度創立60周年を迎えたが、《静と義経》がその記念公演に決まっており、郡はこのリサイタルにおいてもその公演に繋げることも忘れない。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ2018年5月号より)
郡 愛子リサイタル2018 しあわせの道標
2018.5/13(日)14:30 よみうり大手町ホール
問:グローバルアーツ03-5981-9175
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