伊藤京子(別府アルゲリッチ音楽祭総合プロデューサー)

20年の歴史を礎に、未来への道を見据える

 「この20年間は、とても濃密な時間でした」
 別府アルゲリッチ音楽祭が今年20回目を迎える。マルタ・アルゲリッチ総監督、伊藤京子総合プロデューサーを中心に、毎年各地からさまざまな音楽家が大分に集まり、多種多様な共演を行い、有意義なプログラムを展開している。冒頭のことばは、伊藤京子の率直な思いである。この音楽祭の主旨は「育む——未来を生きるこどもたちが心豊かに暮らせる社会を作る」「アジア——アジアの音楽家とアルゲリッチの出会いの場」「創造と発信——大分の地から世界へ向けて音楽文化を発信」の3本柱。今年のテーマは「ローマから大分への道〜音楽が結ぶもの」。主旨にのっとった10公演と関連コンサート3公演が組まれている。
「大分は1551年大友宗麟とフランシスコ・ザビエルが出会ったことにより、西洋文化や西洋医学、ボランティアなどの発祥の地とされています。西洋から伝わったクラシック音楽がアルゲリッチ音楽祭として開花し、ようやく20年を迎えました。日本人は新たなものを受け入れる寛容の精神を備え、宗教や人種を超えて音楽で交流することを大切に考えています。この音楽祭は“出会いの音楽祭”をモットーに未来の道を築いていきたいと思っています。振り返ったときに確かな道ができるようにしたい。そこで今回はローマ公演を企画し、イタリアの子どもたちにも演奏を聴いていただける機会を設けたいと考えました」
 ローマ公演では、アルゲリッチとアントニオ・パッパーノ、ミッシャ・マイスキー、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団のメンバーが共演する。
 20回目を記念する今回の音楽祭ではチョン・ミョンフンが桐朋学園オーケストラを指揮(本公演のみ東京開催)したり、「子どもによる子どものためのコンサート」が行われたり、アルゲリッチとセルゲイ・ナカリャコフ(トランペット)および水戸室内管弦楽団の共演が組まれたり(小澤征爾降板により曲目等変更)、アルゲリッチの次女アニー・デュトワの朗読と音楽の共演と、個性的な組み合わせが詰まっている。公開弦楽四重奏・マスタークラスでは広島交響楽団のメンバーで結成されたクァルテットが受講生として登場する。
「これまで多くの音楽家が音楽祭に参加してくださり、貴重な出会いの瞬間が生まれました。それを未来へとつなげ、架け橋を作りたい」
 伊藤が語るように大分は音楽などの歴史が長く、温泉や食べ物も充実。時間の流れがゆったりとしたこの地では素晴らしい音楽に心身が癒され、至福のひとときを過ごすことができる。ぜひ、濃密な音楽で人生を豊かに!
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2018年5月号より)

第20回記念 別府アルゲリッチ音楽祭
2018.5/6(日)〜6/8(金) 
別府/しいきアルゲリッチハウス、ビーコンプラザ、大分/iichiko総合文化センター、東京オペラシティ 他
問 公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団0977-27-2299 
※音楽祭の詳細については下記ウェブサイトでご確認ください。 
http://www.argerich-mf.jp/