伊藤悠貴(チェロ)

注目の駿才が奏でる“歌”の調べ

C)Charlotte Fielding

優れた若手が次々台頭する日本のチェロ界で、その代表格として注目される伊藤悠貴が、5年ぶり2枚目のCD『ザ・ロマンティック』をリリースした。15歳で渡った英国でデビューした伊藤。前作『ラフマニノフ:チェロ作品全集』は英国制作の海外盤だったから、国内ではこれが初めてのアルバム。「すべての曲に、僕がチェリストとして表現したいことが詰まっている」と自信を語る12曲は、ロシア音楽、英国音楽、ドイツ歌曲、そして“The チェロ曲”的にポッパー「ハンガリー狂詩曲」を入れるという構成。共演はピアノのダニエル・キング・スミスとジェイムズ・リル。
「前作の続きという意味でもないですが、僕の一番大事な作曲家であるラフマニノフの歌曲『夜のしじま』から始めました。チェロでスクリャービンを入れている人など他にいないので、なんとか弾けないかと探し当てたのがホルン曲の『ロマンス』。スクリャービンにはチェロ曲がないんです」
現在も拠点にする英国の音楽からは、エルガー「愛の挨拶」という超有名曲とともに、委嘱曲や、日本ではあまり聴かれない作品を並べた。
「ディーリアス、ブリッジ、アイアランド…。イギリスでは有名な人気作曲家なのですが、日本ではほとんど演奏されません。こうした曲を収めたのは、実は僕にとってはとても大きいことです。10代の頃は、ずっとヨーロッパだけで活動してもいいかと思っていたんです。それが数年前から、日本とイギリスの架け橋というか、日本人演奏家として、イギリスで学んだイギリスの曲を日本の方々に広めたいと思うようになりました。特にチェロだと、ときどきブリテンのソナタが弾かれるぐらいで、ほとんど知られていませんよね」
ジェイムズ・リルの「記憶」は2011年に初演した曲。作曲者自身がピアノを担当した。彼は伊藤が主宰するナイツブリッジ管弦楽団の客演作曲家でもある。
「僕の1歳上のイギリス人で、王立音楽大学の頃からの友人です。彼、日本が大好きなんですよ。独学なのに日本語もうまいし」
そしてシューマン、マーラー、R.シュトラウスの美しい歌曲。
「歌曲は大好きです。歌で音楽を表現するのは、人間の原点だと思うのです。だからそれをチェロでもやりたい。歌曲に限らず、このアルバム・タイトルでもあるロマンティックなメロディは、僕がチェロという楽器をどう感じているのかが一番よく表現できる部分です」
ラフマニノフがライフワークと宣言している伊藤らしい、まさに「ザ・ロマンティック」なアルバム。チェロの濃密で豊かな歌にずっと浸っていたくなるはず。この収録曲をライヴで聴きたい向きには12月に行われる梯剛之(ピアノ)とのコンサートがおすすめだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2017年12月号より)

ロマンティック・クラシック 伊藤悠貴 梯 剛之 コンサート
2017.12/12(火)19:00 東京文化会館(小)
問:MIN-ONインフォメーションセンター03-3226-9999
http://www.yukiitocello.com/

CD
『ザ・ロマンティック/伊藤悠貴』
アールアンフィニ(ソニー・ミュージックダイレクト/ミューズエンターテインメント)
MECO-1045
(SACDハイブリッド盤)
¥3000+税