身体でクセナキスの世界への介入を試みたい
振付家・ダンサーの白井剛と現代音楽の演奏で名高いアルディッティ弦楽四重奏団が二度目の共演を京都で果たす。好評だった2008年の『アパートメントハウス1776/ジョン・ケージ』以来の顔合わせだ。今回取り上げるのはクセナキス。同団により世界初演された『Tetras』を含む3曲に振り付け、上演する。
昨年、ダンスとピアノ、映像で現代音楽に取り組む企画に参加し、メシアン、リゲティ、ライヒ、武満徹など独自の方法を開発した作曲家たちに大変刺激を受けたという白井。この時クセナキスの音楽にも出会っている。
「クセナキスはもともと建築を学び、早い時期から数学的な構築の手法を音楽に取り入れた作曲家。第二次世界大戦でレジスタンス運動に加わり、アメリカへの亡命途中に立ち寄ったフランスにそのまま移住するなど激動の時代を生き抜いた人でもあります。彼の曲を聴くと、音がただ理路整然と並んでいるだけではない迫力を感じます」
「その原動力は何かを探りたい」と語る白井自身もデザインを学んだ理系出身、数学的な思考に共感を覚えるという。
「数学には文学とは違ったロマンティシズムがあり、数式の美しさとか背後にある宇宙の原理に美を見出します。彼の音で踊ってみると一個一個の音が飛んできたりぶつかったり、分子の運動を音で見る、或いは一個の巨大な構造物を見るような気がします」
クセナキスは確率論を応用し、コンピューターを作曲に用いた先駆者でもある。
「ケージの偶然性の音楽には、私が何をしても許容してくれる懐の深さや浮遊感がありました。並べてみるとクセナキスは全然違う。『全ての現代音楽家はケージの影響を受けている、クセナキスを除いては』と言われますが、彼の音楽には質感を受けての自然な運びとか身体サイズの営みを超えて、抽象化に向かって行く推進力がある。その流れに置いていかれないよう並走し、身体で音楽への介入を試みたいですね」
クセナキスに直接会っているアルディッティのメンバーからも様々なヒントを得られそうだという。本番直前の一週間、城崎国際アートセンターで共に滞在し制作を行う予定だ。
近年は他ジャンルとのコラボレーションも多い白井だが、提案を受けて調べるうちに、それまで関心の向かなかった世界を発見する喜びがあると語る。
「音楽には憧れも嫉妬もある。音を感じるままに動くのはある意味ダンスの究極の形。だがそうではない関係を探るのが今回の課題ですね。現代音楽ファンのみならず、様々な観客に来てもらう窓口に私のダンスがなれば」
取材・文:竹田真理
(ぶらあぼ 2017年6月号から)
アルディッティ弦楽四重奏団(音楽) × 白井 剛(ダンス)
6/23(金)19:00 ロームシアター京都 サウスホール
問:ロームシアター京都チケットカウンター075-746-3201
http://rohmtheatrekyoto.jp/