99回目を迎える「ハートフェルトコンサート®」。そのシリーズ第1回にも出演した松永知子のリサイタルが行われる。イタリア歌曲とアリア、R.シュトラウスの歌曲、別宮貞雄の歌曲集「淡彩抄」という内容の濃い選曲。
「約10年ぶりのリサイタルなので、その間に温めていたものをまとめました。イタリアもの、ドイツ歌曲、日本歌曲は私にとって外せない3つです。イタリアでドニゼッティやベッリーニなど、ベルカント・オペラを中心に学んで帰国後、古楽奏者の方々と共演して勉強させていただきながら、古楽のレパートリーも広げてきました。今回はピアノ伴奏ですが、古楽的なアプローチはとても意識しています。いわゆる『イタリア古典歌曲集』は、パリゾッティが編曲したピアノ伴奏の形と、バロック・オペラの原曲ではまったく違いますからね。バロックの中でも、ヘンデルはライフワークにしたいぐらいに大好きで、外せないレパートリーです」
芸大時代には古楽に「ハマった」時期があった。
「でもノン・ヴィブラートとか、表面的なところだけ真似して、その基本の発声の部分で迷いが生じてしまった…というか。古楽の様式はすごく大事にしたいのですが、そのために自分を見失ってはいけないと学びました。ですから、それほど古楽寄りではない、自分のスタイルということになるのかもしれないですが、ヘンデルを歌うにしても自分の“楽器”が一番楽に歌えるところを探してアプローチしようと取り組んでいます」
自分の声のスケール感に最もしっくり来るというR.シュトラウスを挟み、別宮貞雄作品も。
「別宮さんの歌曲は、音と詩との関係が非常に密なんです。『淡彩抄』は、全10曲それぞれに、はかなく切ない恋心が描かれているのですが、それがすごく繊細にフレーズに乗っている。表現は淡々としていますが、美しい情感がとても濃く描かれている名曲です」
今後は、中田喜直の歌曲全曲や、R.シュトラウスのオーケストラ伴奏付き歌曲、ヘンデルのカンタータなど、多くの目標も見据えている。今回のリサイタルは、キャリアの中で選び、見極めてきた、それらの目標への新しい始まりの一歩となる。共演はピアノの長尾博子。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ 2017年4月号から)
ハートフェルトコンサート® vol.99
4/30(日)14:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:境企画03-3485-6040
http://www.heartfelt-concert.jp/