バイエルン国立歌劇場

新地平を拓く舞台と、愛され続けるプロダクションの競演


 ドイツの名門、バイエルン国立歌劇場が6年ぶりに来日する。大方の音楽ファンにとって最大の関心は、ケント・ナガノの後を継いで2013年秋から音楽総監督を務めているキリル・ペトレンコが初来日を果たすということにあるだろう。ウィーン・フォルクスオーパーのカペルマイスターとして歌劇場におけるキャリアをはじめ、マイニンゲン歌劇場で当時のドイツで最年少の音楽総監督(GMD)となり、ベルリン・コーミッシェ・オーパーのGMDとして高い評価を得たペトレンコは、13年からの3年間、バイロイト音楽祭で《ニーベルングの指環》を指揮。演出のフランク・カストルフとの共同作業により、《指環》の上演史の中でも、ブーレーズ&シェローのプロダクションに並ぶほどの成功をおさめた。ベルリン・フィルの次期首席指揮者兼芸術監督に指名されたのも周知のとおり。

ペトレンコとカステルッチが挑む新しいワーグナーの世界

 キリル・ペトレンコ指揮で今年5月にバイエルン国立歌劇場で新演出・上演されるワーグナー《タンホイザー》はイタリア生まれの鬼才ロメオ・カステルッチが演出と舞台美術を担当する。舞台『オフィーリア』や『神曲』三部作が日本でも上演されているカステルッチは、2011年にモネ劇場の《パルジファル》でオペラ演出に進出して以来、14年はウィーン芸術週間におけるグルック《オルフェオとエウリディーチェ》、15年はパリ・オペラ座バスティーユでのシェーンベルク《モーゼとアロン》、17年はリヨン歌劇場で大野和士の指揮によるオネゲル《火刑台上のジャンヌ・ダルク》といった記念碑的上演を任されてきた。
 二つの異なるイデオロギーの狭間で苦悩する芸術家の姿を描いたともいえる《タンホイザー》を、ペトレンコとカステルッチという、ヨーロッパで現在もっとも注目されている才能が真正面から取り組んだ結果、どのような上演が実現するのか? 予想もつかない画期的なプロダクションが生まれる期待が高まっている。しかも、5月に初日を開ける舞台を、9月には東京で体験できるのだ。題名役のクラウス・フロリアン・フォークトをはじめ、マティアス・ゲルネ(ウォルフラム)、アンネッテ・ダッシュ(エリーザベト)、エレーナ・パンクラトヴァ(ヴェーヌス)、ゲオルク・ゼッペンフェルト(ヘルマン)と、万全の配役が予定されている。

バイエルン自慢の《魔笛》が日本初上陸

 もうひとつの演目はモーツァルト《魔笛》だ。1978年にアウグスト・エヴァーディングの演出、ユルゲン・ローゼの舞台美術で、ウォルフガング・サヴァリッシュの指揮で新演出上演されて大成功をおさめ、モーツァルト上演に大いなる誇りと伝統を持つミュンヘンで変わることなく愛され続けてきたプロダクションである。エヴァーディングの演出とローゼの舞台美術は、新解釈をふりかざすものではなく、万人向けの普遍性をもつものだが、実際の上演に接してみると今なお新鮮なスペクタクルとして楽しめる創意工夫に満ちている。2004年にはローゼが経年劣化した舞台美術を再生して新校訂上演がおこなわれている。指揮はイスラエル出身で各地の歌劇場で活躍しているアッシャー・フィッシュ。かつてウィーン・フォルクスオーパーで首席指揮者を務めていた時代には、ペトレンコの上役でもあった。予定されている配役は、マッティ・サルミネン(ザラストロ)、ダニエル・べーレ(タミーノ)、ブレンダ・ラエ(夜の女王)、ハンナ=エリザベス・ミュラー(パミーナ)、ミヒャエル・ナジ(パパゲーノ)と、ベテランから新鋭までがバランス良くそろえられている。こちらも必見の舞台だ。
文:寺倉正太郎
(ぶらあぼ 2017年4月号から)

バイエルン国立歌劇場 2017年日本公演
《タンホイザー》
2017.9/21(木)、9/25(月)、9/28(木) 各日15:00 NHKホール
《魔笛》
2017. 9/23(土・祝)15:00、9/24(日)15:00、9/27(水)18:00、9/29(金)15:00
東京文化会館
問:NBSチケットセンター03-3791-8888
http://www.bayerische2017.jp/