東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 特別演奏会 千住 明 オペラ《万葉集》(演奏会形式)

万葉の優美な世界がドラマティックに蘇る

 作曲家・編曲家・プロデューサーとして活躍中の千住明が、2009年に作曲したオペラ《万葉集》。同年室内管弦楽版で初演されたのち、11年にオーケストラ版で改訂初演された。典雅な古典の世界をリリカルに描いた同作は初演時より好評を博してきたが、この4月、東京シティ・フィルの特別演奏会で待望の再演(演奏会形式)となる。
 千住の音楽は従来の現代音楽の枠にとどまらない劇的な美しさが際立つ。オペラのコアなファンから初心者まで、幅広いファンが楽しめるものになっている。台本は黛まどか。若くして俳人として名を馳せた黛だが、近年はオペラの台本でも実力を発揮している。
 全体は二部から成る。第一部「明日香風編」の時代は7世紀。中大兄皇子(天智天皇)、大海人皇子(天武天皇)という兄弟、万葉の女流歌人・額田王、その姉とされている鏡王女が織りなす艶やかな恋物語が主軸だ。第二部「二上山挽歌編」では686年の天武天皇崩御後の時代が舞台。非業の死を遂げた大津皇子への民衆の思慕やその姉・大伯皇女の喪失感といったものが物語を彩る。『万葉集』からとられた名歌とそれらをつないでいく歌詞がいにしえのロマンを饒舌に描き出す、まさに華麗な歴史絵巻だ。出演はソプラノの市原愛、メゾソプラノの富岡明子、テノールの中嶋克彦、そしてバリトンの与那城敬という4人の実力派の歌手。美しい日本語歌唱も大きな魅力だ。藤岡幸夫の指揮で、万葉の優美な世界がドラマティックに蘇ることだろう。
文:伊藤制子
(ぶらあぼ 2017年3月号から)

4/13(木)19:00 東京文化会館
問:東京シティ・フィルチケットサービス03-5624-4002
http://www.cityphil.jp/