ピアノの新たな可能性を追求し、未知の音色を紡ぎ出す
『ド音ピアノ』、ド音のみのピアノ―想像してみよう。ド音だけで音楽になるのだろうか。どんなひびきなのだろう。
「子どもの頃、書道で墨汁を使うなと言われて、硯をすった薄い水まじりの色で書いていたんです、そうしてでてくる世界が好きでした。墨一色だけどグラデーションがある。そんな音の世界をつくりたい…」
もともとの発想は2010年。寒川晶子が考案し調律の鈴木良に相談し実現した。『ド音ピアノ』は「鍵盤の音はみんなド。1オクターヴ内でドとド♯の間を12分割し、通常のピアノ音階を極端になだらかに調律」している。
「ピアノの音はかならず減衰します。減衰しないピアノの音を聴いてみたい。そんなことも、この発想とつながっているのかもしれません。この楽器でも減衰します。するけれど、となりの鍵盤を押しても(周波数が僅かに異なっている)ドなので、トリルを弾いているとつながっているように感じる。ピアノ音が滲み出て、お経や、虫が飛ぶかのようにうねります」
『ド音ピアノ』の認知はまだまだ。寒川はネット公開もまだしていないし、アルバムをリリースしているわけでもない。
「録音ではよくわからない。鳴っている空間でこそ味わえる音です」
いわゆる西洋的な前衛・実験といった音楽作りとは異なる。
「能管のような音が好きです。西洋のクラシック音楽では、音がたちあがったらすぐにカウントが始まっている感じがありますよね。でも、能管だと、一気に崩れる。カウントからはなれてしまう。そういうのをつくりたい」
ロームシアター京都でのコンサートでは、寒川による『ド音ピアノ』のソロ、檜垣智也のアクースモニウムとの共演、さらに、この二者と伊藤悟による「機織り」の音が加わる三部構成。特に中国雲南省のタイ族の機織りは、世界でも珍しい“音ありき”の機織りで、三者三様の発音形態もさることながら、視覚的なおもしろさも期待させられる。
2014年、革(革職人)とエルメスの絆をテーマとした展覧会、エルメス『レザー・フォーエバー』の前夜祭で『ド音ピアノ』を弾いたという。京都出身だから、機織りがそばで聞こえる環境に育ったことも大きいと言うが、もしかしたら、そんなところにも、織物と『ド音ピアノ』との縁があるのかもしれない。
今回は京都ではじめての公演。京都で育ったピアニストは、あたまの片隅で、西陣織の織機の音も聴いているのだろう、きっと。
取材・文:小沼純一
(ぶらあぼ 2016年8月号から)
ロームシアター京都セレクション 寒川晶子 ピアノコンサート
〜未知ににじむド音の色音(いろおと)〜
9/24(土)18:00 ロームシアター京都 サウスホール
問:ロームシアター京都 チケットカウンター075-746-3201
http://rohmtheatrekyoto.jp
◆ロームシアター京都セレクション プレイベント
寒川晶子 トイピアノ・ミニコンサート
「寒川晶子ピアノコンサート 〜未知ににじむド音の色音(いろおと)〜」のプレイベントとして、「ド音ピアノ」の演奏とはまた一味違った、「トイピアノ」の可憐で涼しげな音色を。
8/27(土)16:00〜16:40
ロームシアター京都 パークプラザ 1階ロビー(京都岡崎 蔦屋書店 インフォメーション前)
問:ロームシアター京都 TEL:075-771-6051